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しおりを挟むディオンとの別れから三年と少しが経ち、ソフィアナは穏やかに暮らしていた。
あの日から一年後に産まれた子供は男の子で、ライリーと名付けた。今2歳を過ぎてとても可愛い盛りだ。
とてもとても愛しい息子。この子のためなら、どんな困難にも立ち向かうだろう。
そして三年前に結婚した夫、ルキウス。
そう。ルキウスと結婚していつの間にか三年も経った。
彼は父が選んだソフィニアの体面を保つための形だけの夫。
ソフィアナが未婚で妊娠した令嬢と醜聞になることを避けるためだった。
それでなくとも、結婚直前で婚約解消となったのだ。
『傷心のソフィアナをルキウスが慰めたことで癒された。再び婚約して解消されることを恐れたソフィアナは直ぐに結婚することを選んだ』
それが、社交界で知られているソフィアナの結婚事情となっている。
ルキウスは元々、マロン侯爵である父の側近、秘書の役割をしていた遠縁の令息だった。
ソフィアナよりも6歳年上で、現在27歳。落ち着いた大人の男。
ライリーをとても可愛がっており、少々……焼ける。
ここ一年ほど、ソフィアナはよくそんな感情を抱くことがあった。
形だけの夫婦であるにも関わらず、ルキウスとの仲は悪くない。
包み込んでくれるような温かさがある人で、兄がいたらこんな感じなのかなと思うこともあった。
だが、ソフィアナとライリーへの接し方が似ていると気づき、お子様扱いなのかと愕然としたのだ。
妹ではなくお子様。なんだか屈辱だった。
それなのに、ライリーに対抗心を抱き焼きもちをやく自分が情けない。
それをなぜかと深く考えることは避けているけれど、ルキウスの父親ぶりを見ると『私たちは幸せな家族』なのだと思いたくなるのだ。
私自身は幸せだ。でも、ルキウスは?
私の夫に、ライリーの父親になったことで、彼が本来得るはずだった幸せな家族を奪うことになったのではないかと不安に思うのだ。
でも………ルキウスが私の側からいなくなることなんて今は考えられない。
あれも欲しい。これも欲しい。まるで、強欲な子供のよう。
自分が手にするはずだったものを失ったことで、手にできたものはもう失わないように。
ライリーを抱いたルキウスが私の方に向かってきた。
笑顔がそっくりな二人。
……そっくり?そんなわけないのに。どうしてそう見えるの?どうしてそう思うの?
ライリーが成長するにつれて、何度もそう思っては考えを放棄してきた。
「ソフィ、そろそろライリーに飲み物を。」
「ええ、そうね。いらっしゃい、ライリー。」
ソフィアナはルキウスからライリーを受け取り、膝に乗せた。
ルキウスはライリーの髪の毛をクシャクシャと撫でた後、ライリーの頬にキスをした。
よくあること。
だけど、ソフィアナはルキウスの唇を目で追いかけてしまい、やがて目が合った。
次の瞬間、ルキウスの唇はソフィアナの頬にあった。
驚いて呆然としていると、ルキウスが言った。
「ライリーを羨ましそうに見ていたから、ソフィも待ってたのかなと思って。」
からかうような言い方だったので、いつもなら軽く返す言葉も出てきたはずだった。
それが出てこなかったのは、ルキウスが私を見る目にライリー同様のお子様を見る目ではなく男を感じたから。
ルキウスがそう感じさせたのか、ソフィアナの心境の変化がそう感じさせたのかはわからない。
顔を真っ赤にしながらもルキウスの唇が触れた頬に手をやって、自分が嬉しそうに微笑んだことは無意識だった。
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