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しおりを挟む結婚を三か月後に控えたマロン侯爵令嬢ソフィアナは、毎日が幸せだった。
一人娘で跡継ぎであるソフィアナは、12歳の時に1歳年上の第三王子殿下のディオンと婚約した。
ディオンが婿入りするということだ。
ディオンは美形で優しく、頭も良い。
やがてマロン侯爵家を継ぐソフィアナの手伝い、いや、領主としての仕事を任せても問題ない。
結婚後は二人で協力し合いながら侯爵家を支えていくだろうとソフィアナも侯爵夫妻も信じていた。
「ディオン様っ!」
この日も約束の時間にマロン侯爵家を訪れたディオンをソフィアナは満面の笑みで出迎えた。
「アナ。今日も綺麗だね。………実は大切な話があるんだ。二人だけで。君の部屋でいいかな?」
両親は外出していて屋敷にはいない。専属侍女も、いつも少しだけなら二人だけにしてくれる。
だが、結婚を三か月後に控えた今、あまり口うるさく言われることもなかった。
「わかったわ。ピア、お茶の用意をしたら下がってくれる?後で声をかけるわ。」
「……かしこまりました。」
ピアが部屋を出て行き、入れてくれたお茶を一口飲んだ後、ディオンが言った。
「アナ、すまない。結婚できなくなった。」
ソフィアナは自分の耳がおかしくなったのかと思った。
だが大好きなディオンの言葉を聞き間違えるはずがない。
ディオンはソフィアナがお茶のカップを持っていないのを確認してから告げたのだ。万が一、熱いお茶をこぼして火傷をすることにならないように、と。そんな気遣いも好きなところだった。
「三か月後、なのに?どうして?先週はあなたの部屋の家具を……どういうことなの?」
ディオンは悲痛そうな顔で言った。
「実は、少し前から二つ向こうの国、ラーガ王国のフロレンティア王女から結婚を申し込まれていた。
私はアナとの結婚が間近であると父に断りを入れてもらったんだが、将来の王配より侯爵家の婿を選ぶのは国交にも影響を及ぼすとうちと向こうの大臣からも圧力があって、断り切れなかったらしい。」
「フロレンティア王女って、1年近く前に婚約者を亡くされた?」
「ああ。私も二度ほどお会いしたことがあるんだ。だがそれほど会話もしなかったというのに。」
なぜ結婚間近の自分が選ばれたのかがわからない、とディオンは言った。
だがソフィアナにはわかる気がする。
ディオンは誰もが二度見しそうなほどの美形だから。
体格もよく、笑顔も素敵で人当たりもよい。
素敵な人だったとフロレンティア王女の記憶に残っていても不思議ではないのだ。
だけど…………
「嫌よ!どうして?今すぐ私と結婚するのはダメなの?……どうして?どうして今なの?嫌よ。」
泣き崩れるソフィアナはディオンに抱き留められた。
この暖かい腕の中がフロレンティア王女のものになるの?そんなの嫌っ!
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