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11.
しおりを挟むオルビスの公爵家には、アミディアが無事に到着したことを伯父様が知らせてくれた。
驚いたのは翌朝。
事前連絡もなしにオルビスはいきなり侯爵家を訪れた。
来訪を聞いて驚き出迎えに行こうと部屋を出た途端、アミディアに向かってきたオルビスに抱きしめられて額にキスをされた。
「アミディア、会いたかった。待ってたよ。」
ニヤッとした笑い方ではなく、満面の笑みでそう言われた。……何コレ。演出?
「オルビス様、お久しぶりです。私もお会いできて嬉しいです?」
困惑のあまり疑問形になってしまったけど、笑って流されたからいいとしよう。
応接室に入り、伯父様と伯母様、お母様と一緒に話をした。
「では、公爵夫妻が揃っておられる2日後に伺うということで。」
「ええ。それと、1年以内に結婚式をしようと考えていましたが、両親も私も早くしたい。
ですので、最短の5か月後に式をしてはどうかと考えています。」
オルビスの言ったことは、昨日この侯爵家で出た案と同じことだったので驚いた。
公爵家には何か早くしたい理由があるのか、それがこの結婚話の裏に繋がるのかもしれないと思った。
貴族の婚約から結婚は、大体半年以上は空けることが望ましく思われている。
婚約から結婚がすぐだったり、婚約を飛ばして結婚した場合、婚前交渉による妊娠や身売り同然の祝福されない結婚を疑われる可能性があるからだ。
もちろんそうでない場合もあるけれど、妙な噂話に上がりたくなければ半年空けるのが常識である。
「まあ!それならやっぱりこのままここでアミディアの結婚準備を手伝うことにするわ。」
昨日はオルビスの公爵家次第だと話し合った結婚式の日取りを向こうからも同じ提案がされたとなると、母はすっかり帰る気がなくなってしまったようだった。
父は悲しむだろうなぁと思いながらも、アミディアにとっては心強かった。
「よろしければ、明後日に日取りが決められるように教会に確認しておきます。」
よかった。この王国では、大聖堂での挙式じゃないのね。
向こうの国では公爵家は王族と同様に大聖堂で結婚式をすることができた。
どの公爵家も王家の血筋が入っているという理由らしいけど、侯爵家に嫁がれた王女様もいるのにね?
参列席をガラガラにするのは恥ずかしいので、大勢の貴族を呼ぶことになる。
そのため出費も多くなるし、挨拶にも疲れるしでアミディアは遠慮したかった。
もし、サミールが跡継ぎのままメレディスと結婚したなら、メレディスは大聖堂での挙式を喜ぶタイプだと思った。
周りの高位貴族が、どうして子爵令嬢が平気でこの場に立てるんだ?と蔑む視線を気にもせずに。
久しぶりに会えたのだから、2人で庭園の散歩でも行ってらっしゃいと言われ、オルビスにエスコートされてアミディアは庭に向かった。
そして、疑問をオルビスにぶつけた。
「まるで『愛しい婚約者と離れていて寂しかっただろう?』みたいな扱いなんですけど。
伯父様たちも、あなたも。」
オルビスは、クククッと笑っている。
先ほど再会した時は、企みのない嬉しそうな満面の笑みだった。
本当に愛しい婚約者との再会を喜んでいたといった感じで。
子供の頃のことはよく覚えていないから、アミディアとしては自国で2回会っただけ。
確かに婚約はしたけれど、自国を出たいアミディアと理由があって結婚したいオルビスの利害が一致したものだと思っていた。
なのに、伯父様たちはとてもこの結婚を祝福してくれている気がする。
数回しか会っていないと知っているはずなのに、すごく微笑ましく思われている気がする。
この男が何かしたに違いない。
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