自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
4 / 21

4.

しおりを挟む
 
 
もう卒業パーティーは始まっている。

アミディアは婚約者であったサミールからエスコートをするという連絡は受けていない。
婚約解消の手続きはサミールに隠して行われたため、本人はまだ知らないはず。

本当にメレディスに言ったようにアミディアをエスコートするつもりだったのであれば、入口でずっと待っていたことになる。
もう入場は終えているだろうから、どうだったかはわからないけれど。


メレディスという令嬢は、サミールが親しくしている子爵令嬢。
2年ほど前から恋人のように寄り添い、サミールはアミディアを蔑ろにし始めた。

その傾向は、その1年ほど前からあった。つまり、学園に入学した頃から。
それまでは普通の仲の良い婚約者だったと思う。
月に一度のお茶会、誕生日の贈り物、観劇に行ったこともある。

サミールがアミディアを避け始めたのは、おそらく周りが私の髪色に忌避感があるため。
同級生たちがそんなにも嫌がるとはサミールは思ってもいなかった。
彼自身は、子供の頃に綺麗な色だと言ってくれたから。
 
やがてサミールはメレディスを隣に置き始めた。
アミディアの反応を窺うような素振りもあった。
だが、アミディアが何も言わなかったので、彼は引っ込みがつかなくなった。

アミディアはそれがわかっていた。
だけど、私の髪色を気にして離れるような婚約者とは結婚できないと思った。

アミディアは、両親に婚約解消を伝えた。
両親は、もう少し様子を見るように言った。
それからも事あるごとに、サミールの不実を伝え婚約解消をお願いした。

1年経って、ようやく両親も動いてくれた。
だが、相手は公爵家。
円満に解消しようとお願いしたが、公爵家からの返事は婚約継続。
何度もサミールの不実を理由に破棄ではなく解消でいいから、と頼んだがダメだった。
サミールが認めないらしい。

アミディアたちは呆れてしまった。
両親によると、2人の婚約はサミールが望んだことだったらしい。
特に政略結婚というわけではなかった。

サミールが認めない間、メレディス本人でもないのに婚約解消を迫ってくる令嬢たちもいる。
下位貴族が公爵令息に望まれているのに、婚約者が邪魔をしていると噂にもなっている。
なぜか、勝手にアミディアが邪魔していることになっている。
意味がわからない。

アミディアは婚約解消を望んでいるのに、認めないのはサミールの方だ。

やがて、サミールがメレディスと肉体関係を結んだと監視から報告があった。
卒業式のひと月前だった。

この裏切りに、公爵もさすがに婚約解消を認めた。
公爵はサミールがアミディアに嫉妬してほしいがためにメレディスを隣に置いているのだと思っていた。
息子の拗れた感情なのだとわかっていた。

サミールはアミディアが好きなのに周りに流されて離れてしまった。
髪色なんか気にする必要はないと言ってやりたいのに、アミディアは頼ってくれない。
他の女性といる姿に嫉妬してくれるのではないかと期待してもアミディアに反応がない。

サミールはアミディアの意識を自分に向けさせ続ける方法を尽く間違えたのだ。

結婚してしまえば、屋敷に閉じ込めてしまえば、自分だけのアミディアを愛でるつもりだった。
そんな独りよがりのサミールの愛をアミディアは気づいていたが、必要なかった。

髪色を批判される婚約者の側にいてくれることもない。
婚約者がいるのに他の女性と懇意になっている。
そのことで婚約解消を伝えても受け入れてくれない。
令嬢たちに批判されているのを知っていても事実を言う気もない。

公にアミディアと一緒にいる勇気もない男など、アミディアはとっくに見放していた。


公爵もサミールを見限り、公爵家の跡継ぎをサミールの弟へと代えることにした。
サミールには子爵位を渡すらしい。
その上で、子爵令嬢のメレディスと結婚すればいいとのことだった。

今日のパーティー前に国王陛下の許可の元、サミールとアミディアの婚約は解消された。


 



 



 




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。 シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。 その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。 そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。 ざまぁ展開のハピエンです。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

【完結】婚約破棄!! 

❄️冬は つとめて
恋愛
国王主催の卒業生の祝賀会で、この国の王太子が婚約破棄の暴挙に出た。会場内で繰り広げられる婚約破棄の場に、王と王妃が現れようとしていた。

処理中です...