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シャルロッテが10歳の時、隣の領地にある有名な植物園に遊びに行った。
広大な公園にもなっているところで、ピクニックもできる。
ここでしか見られないものも多く、あちこちから貴族が遊びに来るところだった。


あちこち見て回り、木陰で昼食を食べた後、シャルロッテはちょっと眠そうだった。

「シャル、少しお昼寝したらいいよ。疲れただろ?」

ジェットがそう言うと、そばに寄ってきて膝枕で寝始めた。
侍女がブランケットをすかさず掛ける。
まだ子供だから周りを気にせずにいられる。
大人の令嬢なら誰にも見られない場所でしかできないよな。
そう思いながらシャルロッテの頭を撫でて、ジェット自身も目を閉じて微睡んでいた。


しばらくした頃、不意に人が向かって来る気配を感じて目を開けると、女性が歩いてきた。
護衛と侍女が警戒するのも気にせずに近くに来たのは、昔、婚約を白紙にした女性だった。
一応、知り合いだと認め、警戒を解いてもらった。

「久しぶりね。ジェット様。元気そうね。」

「…ああ。コレット嬢もね。あ、結婚したから夫人か?失礼でしたね。」

「この間、離婚したわ。」

「それは…知らなくてすまない。」

「愛人に子供を産ませたことを非難したら、産めないお前が悪いって言われたわ。
 そこから泥沼よ。私に育てさせるつもりだったけど、離婚して愛人と結婚するって。
 ひどいと思わない?」

そうだなと答えたらコレットが満足するのはわかったが、同調するのも抵抗がある。
この会話の着地点がわからないからだ。単なる愚痴なのかそれとも………

「あなたの領地、立ち直ったのね。どう?やり直さない?」

……やっぱりね。

「婚約者がいるのでお断りするよ。」

「ああ、そんな話も聞いたわね。まだ子供だったかしら?その援助で領地が助かったのよね。
 じゃあ、愛人にしてくれない?
 子供が婚約者なら、あなたには相手が必要でしょ?」

膝に頭を乗せているのが婚約者だと気づいたのか、嘲るような言い方をしていた。

「それもお断りするよ。…あそこで友人たちが待ってるよ。誰か紹介してもらったら?」

どういう集まりかわからないが、男女数人がこちらを見ている。

「なによっ!そんな子供が大人になるまで待ってから振られればいいわ。童貞男!」

なんて捨て台詞を…怒りながら去っていくコレットの後ろ姿を見ながら、彼女と結婚しなくて済んで良かったと思った。


不意に下から声がした。

「ジェットの婚約者って私なの?」

…ああ、聞こえてしまっていたのか。



シャルロッテが伯爵領に来て、僕が長期休暇で領地に帰った時には一応婚約者として紹介された。
しかし、15歳までの期間限定ということもあって、シャルロッテは遠縁のところに預けられているという設定で接することに両親と決めた。
まだ4歳だったし、婚約者の意味も知らないシャルロッテはすぐに忘れた。
公爵家から来ている侍女たちにもそう説明したので、ジェットがシャルロッテの婚約者だということは誰も口にしなくなっていたのだ。


10歳になったシャルロッテはどこまで理解できるかわからないが、話すことにした。

父親の再婚の経緯、王女からシャルロッテへの冷遇とジェットとの婚約の経緯、そして15歳で学園に入るまでの期間だけであること。
それまでに父親が釣り合った新たな婚約者を探してくれていること。 

シャルロッテは、理解したようだった。…多分。
 
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