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しおりを挟むコンラッドの亡骸が引き渡された数日後、葬儀が行われた。
それまでの捜査でわかったことと言えば、2人の遺体を発見した連れ込み宿の従業員は、コンラッドたちが入室した後に勤務についた者で、2人がどんな状態で宿に入ってきたかは知らなかった。
その従業員と入れ替わりに仕事を終えた者が状況を知っているだろうとその者の家を訪れると、腹部を刺されて死亡していたという。
おそらく、口封じのためだと思われた。
ますます事件性が疑われる。
そして聞き込みを続けたところ、連れ込み宿の近くに住む者が窓から見ていた。
馬車から男は肩に担がれ、女は横抱きにされて宿に入っていったという。
2人は抵抗していなかったため、意識はなかったのではないか。犯罪でなければいいけれど、と思いながら見ていると、15分くらいして2人を運んでいた者たちが出てきて走り去ったという。
遺体からは睡眠薬の痕跡も見られたことから、眠らされたまま宿に連れてこられて毒を飲まされた。
心中は偽装であり、殺人事件として捜査を行っているそうだ。
一緒に亡くなった令嬢は婚約者とも上手くいっており、コンラッドとの接点も全くない。
よって、別々に2人の殺人を依頼されて請け負った裏稼業の者たちが、ついでに心中に見せかけようとしたのではないかという案もあるという。
コンラッドが個人的に恨まれる覚えはないかと聞かれて、あるとすればプリズムに接触しようと周りをうろついていた男たち数人をコンラッドが合法的に排除したことくらいだと侯爵は言った。
しかし、彼らのほとんどはまだ服役中。釈放された者も王都におらず辺境にいたそうだ。
それに、コンラッドのせいで刑罰を受けることになったとも気づいていない。
現状、手詰まりになっており、裏稼業の者を捜査するしかないという状況だと報告を受けた。
心中ではなく殺人。
それは葬儀に訪れた貴族たちにも伝わっており、まだ犯人もわかっていないことから重苦しい雰囲気の中で葬儀を終えた。
しかし、中には他人の葬儀など付き合いとして形だけ出席したと言わんばかりに、ひたすらプリズムに視線を向けている者も少なくなかった。
ベールの下の顔を凝視するかのように。
それを感じ取っていたプリズムも侯爵夫妻も、後は任せて控室にいるホープのところに行くように言ってくれたので向かっていると、後ろから声をかけられた。
「プリズム夫人?いえ、未亡人とお呼びするのかしら。」
プリズムが振り返ると、まだ若い令嬢がいた。
「コンラッド様のこと、ご愁傷様です。」
「恐れ入ります。……失礼ですが?」
「あぁ、初めましてですわね。私、アグリー・タブロットです。ジュリアス様の婚約者よ。」
「そうでしたか。失礼致しました。初めまして。プリズム・ケージと申します。」
「コンラッド様がお亡くなりになったってことは、ジュリアス様が跡継ぎになるのは当然よね?
だから、なるべく早く侯爵家から出て行って下さる?」
「……え?ですが、私たちには子供がおりますが。」
「あなたが子供を連れて実家に出戻ったらいいじゃない。
ジュリアス様が跡継ぎになって私との子供に侯爵家を継がせる方がいいと思うわ。」
「ですが、あなたは自分の家を継がれるのですよね?」
ジュリアスは婿養子になるはずだったと思うのだけど。
「家は親戚が継げばいいの。私が次期侯爵夫人になることを両親も望んでいるわ。」
「そうなのですね。今後の話はまだ義両親とはしておりませんでしたので。
あなたのご両親が納得済みで、侯爵夫妻もそう望まれるのであれば異論はありません。」
「そう。じゃあ、よろしくね。」
ジュリアスの婚約者アグリーは軽やかにプリズムの前から去っていった。
近くでジュリアスがその話を聞いていたとも知らず………
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