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しおりを挟むエスメラルダが産んだ女の子はラピスと名づけられ、とても可愛がられている。
現国王陛下は、エスメラルダの婚約者であったラルゴの兄なのだが、その長男である王太子に昨年王子が産まれていた。
国王陛下からはラピスを孫の王子妃にどうか、と内々に打診が来たが丁重にお断りした。
王家としては、ラルゴのことで迷惑をかけたラース公爵家に対する謝罪の意味と、身分的にも相応しいという思いがあったのだろう。
だが、エスメラルダとしては王家にあまり関わりたくなかった。
『ラピスには大きくなってから自分の目で見て選んでほしい』
親として政略結婚を強いる気はないと告げたのだ。
大きくなってラピスが自分の意志で王子を選ぶのであれば反対する気はない。
エスメラルダがそう言って断ったにも関わらず、国王陛下は定期的に婚約の打診をしてきた。
「国王陛下、ラピスを王子殿下の婚約者候補にすることは何度もお断りをしておりますが?」
エスメラルダはあまりにもしつこいので少し怒っていた。
「だが、出会いの機会を奪う必要もないだろう?」
「ラピスはまだ6歳です。意味もわからずに頷くだけの子を連れてくるつもりはありません。」
国王陛下は孫である王子殿下と接点を持たせるためにラピスを連れて来いと言うのだ。
今のラピスでは、遊んでもらう側であって、楽しければどんなことにも頷く可能性が高い。
例えば、7歳のリルベルにザフィーロが『大きくなったら結婚しようね』と言ったように。
婚約者になることをラピスが頷いてしまえば、国王陛下は話を一気に進めてしまうだろう。
「公爵はつれないなぁ。ザフィーロに公爵位を渡す前に娘の婚約者は決めておいた方がいいと思うが?」
「問題ありませんわ。ザフィーロに任せた後は、私は伯爵になります。ラピスにはその跡を。」
国王陛下は人払いをした後、エスメラルダに聞いた。
「ザフィーロは、弟ラルゴと君の子供なのではないか?」
「……何をおっしゃっているのでしょうか。」
「いや、わかっている。公表できないことだったということは。ラルゴの犯罪はもちろん、君の年齢的にも許されることではなかった。だから、前公爵夫妻の子供としたのではないか?」
王家が気づいていたのは意外だった。だが、ラルゴの性癖からいって有り得ないことではないと結論づけたのだろうか。
「父が言っていたんだ。ラース公爵夫妻は二人目の子供を望めないから君が跡継ぎだった。ラルゴの婿入り先に選んだのもそう聞いていたからだ。なのに、ラルゴの事件後、領地から戻ってきた夫人に子供が産まれていた。
疑うのは当然だと思わないか?」
「……国王陛下、ザフィーロは母が産んだ私の弟です。それが真実です。
ラース公爵家を醜聞に巻き込むようなその憶測は、二度と口に出さずに墓場まで持って行ってください。」
国王陛下に失礼な言い方だが、人払いしていることで言いたいように言おう。
「私が言いたいのは、とにかくラース公爵家には王家が迷惑をかけた。
だからザフィーロと血のつながったラピスが王族となることで新たに公爵家と手を結べれば、と。」
そこはザフィーロではなくエスメラルダと血がつながっていると言うべきだろう。
国王陛下は、ザフィーロが王家の血が流れていることを前提として話している。
「別にラース公爵家は王家に対し何のわだかまりもございません。あの時も慰謝料をいただきましたし。
手を結ばなくとも反目する気はありませんので、ご安心ください。」
国王陛下は大きくため息をついた。
「陛下、しかるべき時期に王子殿下と気の合う令嬢を選ぶべきです。それに、陛下がラピスを望んでいることを王太子殿下はご存知なのでしょうか?」
王子殿下の父親である王太子殿下から打診されたことはないが同意なのだろうか。
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