出生の秘密は墓場まで

しゃーりん

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エスメラルダが襲われたことに誰も気づかなかったからザフィーロは産まれた。

それは間違ってはいないだろう。

あの時、あの翌朝の違和感を、不正出血と分泌物があったことをエスメラルダが正確に伝えることができていれば、医師に診察されていたに違いない。そして避妊薬を飲んでいた。

そうなっていたら、ザフィーロが産まれてくることはなかった。

でも結局は気づくことができずに、何か月も過ごしてしまった。

エスメラルダは馬鹿ではない。公爵家の一人娘として真面目に学んでいた。
閨事の知識がなくとも、自分の体の異変には疑問を持った。
だから、自力で調べたのだ。 

一番疑わしいのは妊娠だった。
そして、最後に月のものが来た日から妊娠しやすい日を計算すると、エスメラルダの13歳の誕生日はその中に当てはまる。

そう思っていたところに、また医師の診察を受けることになった。
医師はエスメラルダに『お疲れなのでしょう。風邪が長引いているようですね。食べられる物だけを食べてよく休んでください』と言った。
長引く体調不良に、医師は疑問を持った様子ではなかった。妊娠を前提に診察したのだとわかった。

あぁ、やはり妊娠で間違いないのだろう。エスメラルダはそう思った。

相手は誰だったのだろうか。可能性として一番高いのは最後に会ったラルゴ殿下になる。
だが、その前にラルゴ殿下の友人にも会っていたので、正直わからなかった。

エスメラルダの専属侍女にも誕生日の行動を聞かれたので、同じことを答えた。

やはり、両親か侍女が妊娠を疑い診察することになったのだ。そう思った。

両親がエスメラルダに何も言わずに動いているのがわかった。
領地に行くようなので、そこで産むことになるのだろう。

他人事のようにそう理解していた。

エスメラルダは、お腹にいる子供を産みたくないとは感じなかった。
自分が望んだわけではなかったけれど、宿ってしまったからには産んであげたい。

そう思っていた。

それから少しして、ラルゴ殿下が犯罪を犯したことで婚約が破棄になったと聞いた。
醜聞に巻き込まれないように、しばらく領地へ向かうということも。 

ラルゴ殿下が犯罪?

両親が何かを暴いたのかとも思った。
だけど、エスメラルダが巻き込まれるとわかっていて、それはないと冷静に判断した。

エスメラルダの妊娠発覚とラルゴ殿下の犯罪が明るみになったことが同時期になっただけだ。

領地に行ってから少しして、ラルゴ殿下の犯罪の内容とエスメラルダの妊娠を聞いた。

妊娠は予想していたから驚かなかった。
ラルゴ殿下に少女を愛でる性癖があったことは驚いた。自分はその犠牲者の一人と言えるのだろう。

だけど、もう二度と会うこともない人だと気持ちの整理はできていた。
誰が父親だろうと、お腹の子供は自分の子供なのだから。

そして両親の子供となることで、子供が醜聞になることを避けられる。

そのことに安心して、出産することができた。

産まれたザフィーロはとても可愛かった。
自分は母親なのに、これからは姉になる。
それは辛かったけれど、ひっそりとどこかに預けられることもなく母と一緒に育てることができるので嬉しかった。 
 
そう。毎日が楽しくて嬉しくて、ザフィーロを産んだことを後悔したことはなかった。

父が亡くなった時も母と2人だけでは心細かっただろうけど、ザフィーロがいたから頑張れた。

12歳になったザフィーロが7歳のリルベルに興味を示したことで少女趣味があるのかと性癖を疑い見張ってきたことは確かだ。その疑いからレイリーと結婚し妊娠しようと思ったことも間違いない。

そして万が一の場合は、ザフィーロを隔離しようとも考えていた。
隔離部屋にはリルベルに似せた人形とドレスを用意して、好きなだけ愛でさせればいいと考えていた。

それで満足するはずはないのだが、エスメラルダの思考は変な方向に振り切りかけていた。
 

エスメラルダの話をそこまで聞いたザフィーロは、腹をかかえて笑い出した。


 
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