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しおりを挟む翌日からザフィーロは行動し始めた。
「あーねーうーえー。フォンド伯爵家にリルベルとの婚約を打診してくれるよね?」
15歳のザフィーロは、笑顔で無邪気を装いながら脅している圧を出している。
「……まだ待って。あなたをどの立場で打診するかを決められないの。」
「僕は公爵家の跡継ぎじゃなくていいよ?どっかの領地に引っ込んでもいいし。」
「……それも含めて、まだどうするかわからないから。あなたはどうしてリルベルがいいの?」
いつかは聞かなくてはならない。それであれば、今がその機会だった。
「どうして、かぁ。う~ん。この子だって思ったんだよね。」
「……まだ小さかったじゃない。それに10歳になった今もどんな子か知らないでしょう?」
「ん?そうだね。だけど大丈夫だよ。」
「……ザフィーロは、あの、くらいの歳の子が、いいの?」
少し核心に迫ったことを聞いた。
「ん?歳?年齢は気にしたことがないよ。大人になったら5歳差なんて気にならないでしょ。
姉上なんてレイリー義兄上と10歳も離れてるじゃないか。」
確かにそうだけど。
「……リルベルが何歳になっても、いいの?」
「何歳になろうが、僕が5歳上でしょ?」
そうなんだけど。
「リルベル、と同じくらいの歳の他の女の子に興味は?それか、学園の女の子はどう?」
「他の子?興味ないね。学園でも観察してみたけど、他の誰にも興味はわかない。
まさか他の令嬢に目星つけてるとか言わないでよ?クリスタ嬢との婚約は受けてあげたじゃないか。
今度は僕の望む相手を許してくれてもいいだろう?
フォンド家が伯爵家だからダメなんだったら僕が公爵を継がなければいいじゃないか。」
「伯爵家がダメなわけじゃないわ。」
痛いところを突いてくる。
このタイミングでエスメラルダに子供ができたことはザフィーロにとっては幸運だったに違いない。
何が何でもリルベルと婚約したいのだろう。
離れたところにいたレイリーがエスメラルダの隣に座って肩を抱いてきた。
「ザフィーロは、リルベル嬢にしか興味がないんだよな?5歳下だと結婚は当分先になるぞ?」
「いいよ。待てるし。」
「エスメラルダ、一先ず打診してみたらどうだ?先方には他に考えている相手がいて断られるかもしれないし。」
「……そうね。わかった。ラース公爵家としてフォンド伯爵家に命令する気はないわ。それでもいい?」
「うん。ありがとう。」
ザフィーロはエスメラルダの前では子供っぽい口調になる。
演技だとわかっている。
いくつもの顔を使い分けることができるのだ。いつからそうなったのか。
この子は……公爵に向いているだろう。そう思う。
さきほどの問いに対する答えが全部本当なのであれば、ザフィーロは異常性癖ではない。
ただ、あの当時、ラルゴ殿下を怪しんだこともなかったのだ。
もちろん、エスメラルダが子供すぎて気づけなかったのかもしれない。
だが、両親も含め、彼を怪しんだ大人もいなかっただろう。
だからどうしても、ザフィーロを信じきれない。
ひどい母親だと思う。
性癖が親子で似るのかといえば、否だとわかっている。
しかも、ザフィーロは父親に会ったこともないのだから、有り得ないと思いたい。
なのに、結婚して子供ができた自分が後ろめたくもあり、それでいてホッとしているのだからどうしようもない。
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