5 / 20
5.
しおりを挟むザフィーロの思い人、リルベルは遠縁の伯爵令嬢でまだ10歳。
ザフィーロとは5歳差である。
大人になれば5歳差くらいは問題はない。
だが、ザフィーロがリルベルがまだ7歳の時に見初めた。
正直、エスメラルダはゾゾっと寒気がした。
その理由は、ザフィーロの父親にあった。
ザフィーロはエスメラルダの弟で同じ両親から産まれた公爵令息ということになっているが、ザフィーロの父親は、エスメラルダの父親とは違う。というか、母親も違う。
ザフィーロはエスメラルダの息子だ。13歳の時に産んだ子だった。
父親は誰か?それは当時の婚約者であった第三王子ラルゴである。
ラルゴとエスメラルダの婚約は、ラルゴが15歳、エスメラルダが10歳の時に結ばれた。
エスメラルダは一人っ子で公爵家の跡を継ぐことが決まったからだ。
それから三年、何も問題はなかった。
だが、エスメラルダが13歳の時、突如異変が訪れた。
「奥様、お嬢様がまた食事はいらないと……いかがいたしましょうか。」
「どうしたのかしら。最近、あまり食べたくないみたいね。医師は微熱もあるから軽い風邪のようだと言っていたけれど、長いわね。」
「実は……気になっていることがあるのですが。」
エスメラルダ専属の侍女は戸惑うように、しかし、黙っていられないというように公爵夫人に気にしていたことを告げた。
「お嬢様の月のものが、もう四か月も来ておりません。」
「……あの子は初潮を迎えてまだ一年だから不順や長い周期があってもおかしくはないと医師には言われたわよね?でも四か月も?……まさか、あなたあの子が妊娠しているとでも?」
「申し訳ございません。ですが、症状が似ていると思ったのです。……眠そうですし。」
吐き気、微熱、眠気。妊娠初期に当てはまる症状だった。
「だけど、いつ?相手は?あの子を一人きりにする時間なんて寝室に忍び込まない限りないわ?」
いや、眠っている時でも物音がしたら駆けつけられる場所に侍女もいるので不可能である。
「……そうですよね。勘違いであればいいのです。奥様を不安にさせるようなことを申し上げてしまいました。」
「いえ、気になるのは当然よ。……あの子、閨教育はまだだったかしら。」
「そうですね。初潮を迎えられた時に子供を産むための大人の体に成長しているのだと説明は致しましたが、具体的なことは14歳でと伺っておりましたので。」
「そうね。……でも無知も問題かもしれないわ。少し早めましょうか。」
「わかりました。お嬢様の体調が良くなり次第、手はずを整えます。失礼いたします。」
公爵夫人は、部屋を出て行こうとしたエスメラルダの侍女を呼び止めて聞いた。
「待って。……エスメラルダに最後に月のものがきたのはいつ?」
「確か、お嬢様の13歳のお誕生日の半月ほど前のことで……す……」
侍女は言いながら、思い出してしまった。
エスメラルダは13歳の誕生日当日、少しの間、行方がわからなくなっていた時間があったことを。
984
お気に入りに追加
1,183
あなたにおすすめの小説

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。

見えるものしか見ないから
mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。
第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

私は恋をしている。
はるきりょう
恋愛
私は、旦那様に恋をしている。
あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。
私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします
リオール
恋愛
私には妹が一人いる。
みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。
それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。
妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。
いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。
──ついでにアレもあげるわね。
=====
※ギャグはありません
※全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる