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しおりを挟むフェリシアが出産するひと月ほど前、国王とフェリシア、アンバーとショーンの四人だけで話す機会があった。
その時、国王が疑問に思っていたことを聞いた。
「王妃が自国で逃げ出した時、駆け落ちだと情報では伝わっていた。
それなのに王妃が連れ戻された後、ショーンはなぜ処分を受けなかったのだ?」
尤もな疑問であった。
「それはね、理由の一つが駆け落ちではなかったからよ。逃げる私に護衛のショーンがついてきたの。
その時は、まだ王女と護衛、ただそれだけの関係だった。
父の国王は、私への見せしめにショーンを処罰した上で護衛のまま側に置いたの。
父がショーンに下した罰は、子供が作れないようにしたこと。
子供が産めない私に子作りできないショーンを側に置くことで私への戒めにしたの。
でもね、父が知らないことがあるのよ。
父は『子作りできないように元を絶て』と言ったの。つまり『切り落とせ』と。
それを命令された騎士団長は国王の命令を正確に理解していた。
でも、男として騎士として横暴に感じたのでしょうね。
護衛の任務を果たしただけだもの。私についてくるのも仕事でしょ?
子作りできないってことは子種を絶てばよい。つまり子種を死滅させる方を選んだの。
命令に背いたわけではないわ。解釈の違いよ。
父は未だに知らないでしょうね。」
「騎士団長に経緯を説明され、薬を飲むように言われました。
『下半身を見せるわけじゃないんだからバレない』と笑ってました。
『数日だけ医者の所にいろ。アリバイだ』と。
あの人には感謝しています。」
「ショーンが護衛に復帰した後、処罰を聞いていた私は申し訳なくて謝ったの。
謝ってもどうしようもないことだけれど、私の護衛だったばかりに人生が変わってしまった。
そんな私に、こっそり教えてくれた。薬を飲んだだけだと。
元々、私についてこの国にもついて行くつもりだから結婚する気もないから問題ないって。
その少し後、あなたが極秘で確認に来られたのよ。
チャンスだと思った。あの国から逃げたかった。だから駆け落ちの誤解を解かなかった。
護衛として恋人としてショーンを連れていく契約が結べた。
実際にお互いを唯一と決めたのはその後よ。」
「そういうことか。なるほどな。騎士団長はいい男だな。」
国王はニヤっと笑ってショーンに言った。
「ええ。本当に。」
男にとっては耐え難い屈辱である。処刑された方がマシと言われるほどだ。
実際、切り落としの処罰後、感染症により死亡するという二重の苦しみを負った者もいる。
「王妃、ショーン。お前たちはこの国に来てよかったと思ってくれているか?」
「もちろんよ。満足してるわ。」
「私もです。寛大なお心に感謝しております。」
四人の、通常ではあり得ない極秘の関係はこれからも長く続くことになる。
それこそ、国王陛下が退位しフェリシアと移ることにした離宮でも四人一緒だった。
改めて気持ちを確認し、満足のいく話し合いを終えた。
その後フェリシアは王子を二人、王女を二人の四人の子供を産んだ。
結果、側妃になってから10年程はほとんど公務をすることがなかった。
滅多に外に出れないフェリシアに不満はなかったのだろうか?
彼女は満足していた。
令嬢や夫人方の不躾な視線もないし、腹の探り合いもない。嫌味も妬みもない。
大切に思う人々に囲まれ、囲われていることを認識しながら幸せに暮らしていた。
こうしてフェリシアは国王と王妃に守られ、子を産むという立派な『側妃としての役割』を果たしたのだった。
<終わり>
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