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しおりを挟むしかし、長女が16歳の時、実父のことが噂になった。誰かの親が話したのだろう。
そして長女から笑顔が消えた。
何かがあったのはわかるが、長女は話さない。
実父の噂によるいじめが濃厚だと思ったが、長女は大丈夫だと言った。一時のものだろう、と。
だがある日から学園に行かなくなった。
長女が行かなくなった学園で『阿婆擦れ』と呼ばれていると知った時には、妊娠していた。
誰の子かもわからない。そんな状態だった。
実際は、父親のように遊んでいるのだろうと数人の男に襲われたという。
長女は心を壊してしまい、部屋に閉じこもった。
数日後、『病死』した。
貴族家で働く使用人にとって、『未必の故意』はよくあることだ。
いつもと違う行動の指示。
いつもと違う薬の種類。
急な休暇やいつもより多い給金。
自分の行動でどうなるかを予測していながらも、指示通り行動する。
ある意味共犯者のようなものなのだ。
長女の『病死』に関わった『未必の故意』が誰であろうと詮索はしない。
リラベルとオーリスは長男に、長女が『病死』した理由をハッキリと説明した。
そして長男が2人の実子であり、前夫の子ではないとも告げた。
長男は、『病死』が姉の望みだったのなら、意思を尊重すると言った。
家門を守るためには冷酷な判断を下さなければならない時もある。
たとえそれが身内でも。
そして、それが悪意からでない限り、使用人も口を噤むのだ。
前夫ルシアスの時は判断を誤った。遅すぎた。
今回は長女本人の望みだった。
カステーロ伯爵家のために。跡を継ぐ長男のために。
憂いを絶った。あくまで『病死』である。
貴族たちには、実父のことで心無い中傷を受け弱っている時に風邪をこじらせて亡くなった『病死』と発表している。
これは親と子供を一緒にするなというメッセージでもあった。
前夫ルシアスの子供ということになっている長男を守るためでもあり、いじめに関わった者たちへ罪悪感を感じてもらうためだ。
だが、この長女の『病死』は貴族に向けた表向きの発表。
死んだことにして、平民として領地で子供と生きることを長女は選んだ。
こっそりと領地へ向かう長女と共に旅立ったのは、10歳ほど年上の1人の騎士。
安全に領地へと送り届けるために厳選して選んだ長女もよく知っている騎士に実情を話すと、そのまま長女と一緒にいて支えたいと言ってくれたのだ。
近い将来、彼とならば長女も明るい未来を迎えられると信じて、『病死』を手伝った使用人と共に見送った。
長女を襲った男たちも『病死』した。
こちらは本当に亡くなっている。
ある部屋の一室で4人全員が裸のまま謎の死を遂げたのだ。
よく女性が連れ込まれていたという情報もあったが、この時はその場にはいなかったようだ。
拘束具や怪しげな薬も見つかっているし、精液のこびりついたシーツや女性物の切り裂かれた下着なども数点見つかったことから、この部屋は死んだ男たちが無理やり女性を暴行していた部屋ではないかという結論に達した。
しかし、遺体に外傷はなく、毒でもない。
4人揃って突然死にしか見えないことから、『病死』となった。
当然だ。大切な娘を『病死』に追いやった男たちを許すはずがない。
捜査した者たちもわかっていた。
これは、ここで穢された女性の身内か、暗殺に長けた者に依頼した結果だと。
私刑の結果だとは明らかだが、証拠は何もないし自業自得だとも言える。
救いは、ベッドのシーツに情交の跡がなかったことだ。
最後に部屋に連れ込まれた女性は無事だったと思われた。
犯人の顔を見ていようと、名乗り出てくることはないだろう。
助けられて、しかも男たちは『病死』として片づけられたのだから。
そして、亡くなっていた部屋の状況を聞いた4人の男たちの家族も醜聞を恐れて犯人捜しなどするはずもない。
『未必の故意』は罪かしら?
<終わり>
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