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しおりを挟む昼食を取りに行こうとロブが娘から目を離した隙に、娘がルシアスを襲い返り討ちにあっていた。
娘を刺し殺してから顔をみたルシアスは、こう言ったそうだ。
「ああ、昨日連れ出して抱いた女か。
屋敷でも抱ける娼婦に育てあげようと思ってたんだけどなぁ。
そう説明する前に気絶したから伝え損ねたな。
遊ばれたと思って怒ったのか。殺したのは勿体なかったなぁ。」
騒ぎを聞いて駆けつけたロブが娘を抱き起すと、ルシアスが言った。
「あれ?お前の女?え、まさか娘か?
ごめんごめん。知らなかった。
お前の走らせる馬車の中で、娘の処女をもらっちゃったよ。
可愛いから専属の娼婦にするつもりだったんだけど、死んじゃったね。
仕方ないから今日の夜は大人しく屋敷にいることにするよ。
お前に馬車出してって言うのもかわいそうだから。
部屋で酒でも飲むことにする。ワインでも持ってきてー。」
その場に居合わせた使用人全員がルシアスに殺意を抱いたことに間違いなかった。
リラベルは使用人に、ルシアスに渡す酒に睡眠薬を入れるように指示をした。
睡眠薬はオーリスが持ち歩いている。
オーリスは、通常よりも多めの量を使用人に渡し、使用人は無事に役目を果たしてルシアスが眠りについたことを告げた。
ロブは使用人たちの手を借りて、娘を妻の墓の隣に入れた。
伯爵夫妻は、病死として手続きするように告げていた。
伯爵夫妻とリラベル夫人が呼んでいると聞き、ロブはその部屋を訪れた。
3人が頭を下げて謝ってくれても娘は生き返らない。
ロブは聞いた。
「あの男に未練はありますか?」
伯爵の答えはこうだった。
「アイツは今、睡眠薬で眠らせている。朝までは眠るだろう。
その間に、煮るなり焼くなり沈めるなり切り刻むなり、好きにしてくれたらいい。」
伯爵夫妻もリラベルも、合意の上の行為は勝手にしたらいいと放置していた。
まさか経験のない、それもまだ14歳の少女に手を出すとは思ってもみなかったのだ。
今後の犠牲者を出すわけにはいかない。
それに法的手段で裁いても、貴族と平民であるためルシアスが死刑になることはない。
どうするかはロブに任せると決めた。
「お世話になりました。」
ロブの最期の言葉は、それだった。
ルシアスをどうするかは知らないが、ロブは戻らない覚悟ということだろう。
眠っているルシアスをロブは堂々と担いで屋敷を出たが、使用人全員が見なかったことにした。
忌まわしい馬車にルシアスを放り込み、伯爵家が所有する中でも老いた馬を選び、最期の力を振り絞らせながら出て行った。
どこに行ったかは誰も知らない。どうなったのかも誰も知らない。
ただ、妻と娘の隣で眠らせてやりたい。必ずロブを見つけてやりたいと思った。
10日ほど後に崖下から見つかった2人は、どんな経緯で落ちたのかはわからない。
あそこを死に場所として選んだのか、本当に事故だったのか、目を覚ましたルシアスと揉み合ったのか。
だが、2人はあそこで亡くなった。
顔の判別が難しかったルシアスよりも、ロブはロブと判別できたそうだ。
崖から落ちるより前に、ロブはルシアスの顔を殴りつけていたのではないか。
顔を潰すくらいに殴りつけた時点でルシアスは生きていたのだろうか。
そして、忌まわしい馬車とルシアスと共に崖から落ちて死ぬことを選んだのではないか。
それが事実なのではないかと思っている。
なんとかロブを、妻と娘の隣で眠らせてやることができた。
事実はどうあれ、これは事故なのだ。
犯罪者墓地などで眠らせてはいけないのだ。
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