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しおりを挟む碌な男としか接してこなかったルクレツィアは、テリーからの好意が嬉しかった。
自分でも簡単な女だと思う。
だけど、テリーには元婚約者の行動を諌められないことを詫びてくれた誠実な過去や、父が3年もの間、そばに置けるほどの信頼感という前提があったからこそ、だと思っている。
好意を向けられれば応えたくなり、結局は自分もテリーに好意を抱いたのだ。
よく知らない人に好意を仄めかされても、そんなに簡単に靡いたりしなかっただろう。
結局は、恋多き女からは程遠い性格なのだから。
子供が寝静まった後に少しだけ2人の時間を取る。
恋人になってから10日ほど、そうして過ごしてきた。
そして、この日誘われた。
『僕の部屋で過ごしませんか?』と。
次の日は、仕事休みの日だった。
つまり、そういう前提で誘っている。ルクレツィアはそう理解した上で誘いを受けた。
国王陛下しか知らないルクレツィアは、情熱的なテリーに一晩中愛された。
全て、テリーが上書きするかのように。
陛下は確かにいろいろと教えてくれた。
教師と生徒みたいに。
反応を面白がるように。
遊んでいるみたいに。
言わば、遊び人との閨事はあんな感じなのかもしれない。
しかし、テリーとは違った。
お互いの好意があるせいなのか、圧し掛かってくる重みですら嬉しかった。
『愛されてる』ということを言葉と体で実感させてくれたように思う。
そして、騎士にもなれる体格は、体力も半端なかった。
体の相性は問題なく良いと思えた。
これ以上は何を望めばいいのか、ルクレツィアにはわからない。
どこが到達点なのかもわからないものを追い求める気なんてない。
いろんな男を試せと言われたが、ルクレツィアはテリーがいいと思った。
心も体も彼を欲している。
更に高みを望もうとすると、何が良いかもわからない恋多き女になるような気がする。
そんなものになる気はない。
私だけでなく子供たちも大切に思ってくれる、そんな愛しい恋人テリーは、両親にも認められて幸せな日々を過ごしていた。
しかし、そんな日々を送る1年の間にも、問題は積み上がる。どんどんと。毎日毎日。
積み上がるのはルクレツィアのもとに届く釣書。
国王陛下の子供が跡を継ぐ伯爵家が潰れることはない。
そんな邪な考えで、楽をしたいと考える未婚の令息からの縁談の申し込み。
中にはまだ4歳のフォードや2歳のアミーリアの縁談申し込みまであるけど。
まだ23歳のルクレツィアは跡継ぎなので、子供がいても単なる出戻りではなかった。
再婚しても、あなたの子供は産みません。なんて言って回るわけにはいかない。
そして、この問題に片をつけるのならば、結婚するしかなかった。
そんな気持ちにも、テリーはすぐに気づいてくれた。
「ツィア、愛してる。僕と結婚してほしい。僕を選んでくれないか?」
「もちろんよ。結婚するならあなたしかいないわ。愛してるわ。」
ルクレツィアとテリーは正式に婚約し、半年後に領地で結婚式をあげた。
離婚して約2年、テリーと恋人になって1年半後のことだった。
その直後に開かれたのが、あの王家主催の夜会だった。
王命であの噂の独身公爵の妻になったのに、国王陛下の公妾になった次期伯爵。
陛下がルクレツィアを公妾にしたいために、公爵に嫁がせたという噂もある。
婚約破棄でいい縁組に恵まれないことを嘆いて陛下の子を産んだという噂もある。
いずれにせよ、陛下の愛人だった女性が再婚した。
相手はどこの誰だ?
夜会では話題の中心だった。
そんな中に現れたルクレツィアとテリー。
幸せそうなオーラを纏い、輝くような美しい女性を護衛するかのように守る男性。
国王陛下と元夫である公爵に挨拶をしても、王妃陛下に挨拶をしても、注目されていることなど気にすることなく仲睦まじい姿を見せつけて去っていく姿に、令息・令嬢たちは羨望の眼差しで見送っていた。
<終わり>
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