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しおりを挟む伯爵の協力もあり、テリーがルクレツィアと一緒に仕事をする時間が増える。
休憩時間も、フォードやアミーリアに会いに行くルクレツィアに同行させてもらう。
こうして疑似家族のように過ごす時間も楽しいが、ルクレツィアに触れられる関係になりたい。
テリーは覚悟を決めて、ルクレツィアに声をかけた。
「ルクレツィア様、私的な話でお時間を頂きたいのですが。」
「あら。じゃあ、子供たちが寝てからでもいいかしら?」
「はい。庭園でお待ちしています。」
「わかったわ。」
侍女と一緒に庭園にやってきたルクレツィアを、侍女から見えなくはないが会話が聞こえなくなるところまで移動して向き合った。
「ルクレツィア様、僕はあなたが好きです。恋人になってくれませんか。」
いくら言葉を飾ろうと思っても、自分には難しかったテリーは率直に伝えた。
「え……あの、気持ちは嬉しいわ。でも、ごめんなさい。
もう少し今の生活に慣れたらって考えていて……」
「慣れたら考えていただけるのですか?それとも僕ではダメだと言うことですか?
すいません。こういうやり取りに慣れてないのです。
遠回しに言われるよりも断るのなら、はっきりと言って下さった方がいいのですが。」
「あ、ごめんなさい。そういう意味ではないの。
あの……ダメね。私も慣れていないの。座って話しましょう。」
待っていた侍女には戻っていいと合図をした。話が長くなりそうだから。
近くのベンチに腰をかけて、どう話そうかルクレツィアは悩んだ。だけど正直に話すことにした。
「あのね、私はもし再婚することになっても、その方の子供を持つつもりはないの。
再婚しないとしても、恋人は作るべきだってお妃様や夫人方には言われたのね。
確かに爵位を継ぐと夜会とかでパートナーが必要になるもの。
父には毎回パートナーを変えるような恋多き女にはなるなと言われたけれど。
でもね、いざ恋人を……と思ったけれど、見つける方法がわからなくて。
それに、結婚前提ではないお付き合いで恋人になってくれる人って遊び人?って思ってしまって。
逆に自分が遊ばれて関係が終わるっていうのを繰り返したら、それこそ恋多き女よね。
そういろいろ考えてしまって。
あ、あなたが遊び人だと言ってるわけじゃないのよ?
なんというか、こう、正直に言うとどうしたらいいのかわからなくて困ってるの。」
本当に困ったように言うルクレツィアを見て、テリーは唖然とした後、笑いが込み上げてきた。
肩を震わせて笑っているテリーにルクレツィアが拗ねるように言った。
「もうっ!自分でも何でこんなこと言ったのか恥ずかしいわ。」
「ルクレツィア様に恋多き女は無理ですよ。
僕で試してみてくれませんか?決して遊び人ではありませんし。……抱きしめていいですか?」
「え?」
答える前に、ルクレツィアはテリーの大きな体にすっぽりと覆われていた。
「どうですか?僕に触れられて嫌だと思うなら無理でしょう。
嫌だと思わないのであれば、少しずつ男だと意識してくれませんか?」
「……嫌じゃ、ないわ。テリーは家族みたいに最近は思ってしまっていたもの。」
「その、家族枠に入れられる前に男として見てほしいのです。
こうしてあなたを抱きしめて、キスをして、体に触れられる権利が欲しいのです。
そう言われて嫌ですか?」
ルクレツィアは、テリーに触れられる想像をした。
そして、この逞しい体に抱かれることを期待してしまった。
今まで意識したことなんてなかったのに。
「……嫌、じゃないみたい。あなたのこの早い胸の鼓動に触れて、私も早くなってる。
それに恥ずかしいけど、多分、嬉しくて、顔が熱いわ。」
「よかった。では、僕を恋人にしてくれますか?」
「ええ。」
テリーの胸から顔を上げたルクレツィアの額にキスをした。
驚いた表情の後、照れたような表情になったルクレツィアの顔に、テリーは自分の顔を近づけていった。
狙いが唇だとわかっても逃げないルクレツィアに、もう逃がさないというように頭の後ろに回した手を引き寄せてキスをした。
軽く触れたキスは、角度を変えながらしばらく続いた。
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