上 下
14 / 50

14.

しおりを挟む
 
 
ローレンスが仕事を終え、家に向かっているとジェイド・ピルスナーがいた。

1週間、姿を見せていなかったのでもう帰ったものだと思っていた。

彼がここで何をしているのか、何をしにきたのかも知らないが、早く帰ってほしい。


「ローレンス、君のことを少し調べさせてもらったよ。」

「調べた?」

「ああ。君は記憶喪失になっている。そうだな?」


そのことか。


「確かにそうですが、僕はランスですよ?記憶を失う前もランスと名乗っていたようなので、ローレンスではありません。」

「そうらしいが、君は失踪後に名前を変えて暮らしていただけなんだろう。
だが、君は貴族だ。オリオール侯爵としての責任があるんだ。元の場所に戻るべきだろう?」

「そうは言われても、もし、僕がローレンスだとして、僕がいなくて何か問題があるのですか?
今も誰かが侯爵となっていて、しかも困っているわけではないのですよね?戻る場所、本当にあるのですか?
それに、あなたは身内ではないのですよね?よその家のことに口出しして問題になりませんか?」


ジェイドは自分の行動に問題があることを自覚しているのだろう。一瞬、不快そうな顔をした。


「だが、子供のことをどう思っているんだ?お前が失踪したときは、まだ夫人の妊娠を知らなかったのだろうが、その子供に対して、責任があるとは思わないのか?」


僕の子供じゃないんだよ。


「僕は自分が結婚していたとは思えません。子供をつくるような行為も妻が初めてだったようです。
ですので、自分の子供とは思えないのに責任があると言われても、困ります。」


男の初めてがいつかなんて、証明のしようがないし聞きたくもないだろうがな。

ジェイドは深くため息をついてから言った。


「正直に言おう。俺は夫人の子供がローレンスの子供ではないと思っている。」

「では責任もなにもないのでは?」

「それは王都に連れ戻す口実みたいなものだ。
ローレンスの子供ではないということは、オリオール侯爵家の子供でもないということだ。
オリオール侯爵家はローレンスの母親の血筋だ。直系はローレンスしかいない。」


わかってるさ。それでも、殺されそうだったからオリオールを捨てたんだ。 


「夫人が浮気をしたという話ですか?でも証拠などないのですよね。」

「ローレンスの失踪は、結婚3か月後に公表された。だが実際は結婚後わりとすぐなんだ。」

「……どうしてそれがわかったのですか?」

「質屋だ。ローレンスが金を得るためにいろいろと持ち込んでいた。
店長の専門外のものもあって専門家に査定をしてもらうと言ったが、その男は急いで王都を出たいからと適当でと言ったらしい。
訳アリ貴族だと思ったが悪い男には見えないし、駆け落ち資金だろうと思って、激励の意味を込めて少し色を付けて金を渡したと店長は言っていた。」 
 

そう言えば、頑張れよって笑顔で送り出されたな。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける

基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。 「王太子殿下。お初にお目にかかります」 聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。 「魅了だって?王族が…?ありえないよ」 男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。 聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。 王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。 その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。 いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。 「あの女…っ王族に魅了魔法を!」 「魅了は解けましたか?」 「ああ。感謝する」 王太子はすぐに行動にうつした。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ

基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。 わかりませんか? 貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」 伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。 彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。 だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。 フリージアは、首を傾げてみせた。 「私にどうしろと」 「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」 カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。 「貴女はそれで構わないの?」 「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」 カリーナにも婚約者は居る。 想い合っている相手が。 だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。

処理中です...