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学生時代、ソランジュは一度だけオーリオに忠告したことがある。


「サミア様にはあまり近づきすぎないよう、お気をつけください。」

「……どうしてそんなことを言う?僕の交友関係に口出ししてほしくないな。」

「サミア様はあなたが思っているような、たおやかな方ではございません。利用されているのです。
あなたと同じように王太子殿下のご友人でありながらサミア様のそばに侍る方々も同じです。
それぞれの婚約者に、サミア様はおっしゃっています。『しばらく婚約者を借りるわね』と。
意味がわかりますか?」

「それは……そのままの意味だろう?僕は王太子殿下に頼まれてサミア様の近くにいるんだ。婚約者の君の言うことより、殿下の頼みやサミア様の願いを優先すべきだとわかるだろう?」

「……そうですか。ではあと一言だけ。『超えてはならない一線をお忘れなく』」


久しぶりの婚約者との会話はそれで終わった。




ソランジュは学園入学後、サミア様についていろいろと情報を集めた。
 
そしてわかったのが、サミア様の何らかの行動がウラノス王太子殿下の気に障ったということ。
そのため、ウラノス王太子殿下はサミア様とは婚約者として接することはあっても仲を深める気はなく、学園内でも行動を共にすることはない。

そして王太子殿下は、シャノン・アース伯爵令嬢を恋人にしている。
今のところ、シャノン様は側妃候補と言われている。

いや、間違いなく側妃になり、王太子殿下の寵愛はシャノン様のものだろう。

しかし、この国ではよくあること。
正妃とは政略結婚、側妃とは恋愛結婚が当たり前なのだから。

それでも正妃が尊重され、後の王妃になるのはサミア様だと決まっている。


サミア様もわかっている。王太子殿下との間に溝が出来ていることを。
理由に気付いているのか、いないのか。

そこまでソランジュにはわからないが、王太子殿下がシャノン様と過ごしたい時に数人の友人をサミア様の元へと行かせる。その中にオーリオ様が入っている。

『私の代わりにサミアのご機嫌伺いをしてきてくれないか?』

王太子殿下のそんな言葉に従い、オーリオたちは喜んでサミア様の元へと侍る。

そしてサミア様の外見の美しさと笑顔と話術によって、男たちはますます虜にされていた。



そんなことが卒業まで続き、先に卒業したウラノス王太子殿下とサミア様は結婚。

彼らと一緒に卒業したオーリオは、王太子殿下の側近枠で採用されてはいるが、やっていることは雑用とサミア様のご機嫌伺いという、学生時代と何ら変わりのないことをしているとソランジュは知っていた。
 



 
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