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しおりを挟むマーキュリー侯爵令嬢ソランジュは、今日、マーズ伯爵令息オーリオと結婚した。
私たちは政略結婚。
オーリオはソランジュの1歳年上。
二人の仲は婚約時代に全く深まることはなかった。
しかし、初夜は行われた。
ほぼ会話はなく、淡々と。共に眠る気はないようで部屋を出て行った。
しかし、侍女を呼んでくれたことで、労わる気持ちは持ち合わせていたようだ。
体をきれいにした後、自分の部屋のベッドで眠った。
夫婦の寝室で戻ってこない夫を悲しみ、泣きながら眠る妻を演じるつもりはない。
初夜は終わった。
ソランジュは間違いなくオーリオの妻になったのだ。
ソランジュがオーリオと婚約したのは14歳のとき。
顔は好みだけど、頭は弱そうだと少し会話をして思った。
オーリオは15歳で既に学園に入学して半年が過ぎていた。
そのせいで、オーリオは忙しいのか婚約時に顔を合わせた以外はデートにも誘われなかった。
しかし、忙しいのだと思っていたのは間違いだったと半年後にソランジュが入学してから気づいた。
オーリオは王太子殿下の側近候補になったのか、取り巻き、もとい、友人のように行動を共にしていた。
『意外と野心があるのね』
ソランジュは初め、そう思った。だから忙しいのだ、と。
婚約者であるソランジュが入学しても会いに来ない。連絡もない。
交流を深める気がないのは明らかだった。
恋愛によって婚約したわけではない。政略的なもの。
徐々にお互いを知っていけばいいと思っていたが、今のオーリオにその気はないらしい。
しかし、結婚すれば嫌でも同じ家に住むことになる。跡継ぎも必要になる。
人生は長い。結婚後に歩み寄ればいい。それでもオーリオの態度が変わらなければ、その時考えよう。
そう思っていた。
だが、オーリオの視線の先を辿ることで気づいた。
『あぁ、オーリオ様には好きな人がいたのね』
だからソランジュと交流する気がなかったのだ。
しかし、その相手はウラノス王太子殿下の婚約者サミア・プルート公爵令嬢だった。
輝くような美貌で、人を魅了するような笑顔。
オーリオも恋心を抱いてしまったのだとわかった。
報われない恋。
王太子殿下と行動を共にすることでサミア様を好きになったのか、サミア様に恋をしたから王太子殿下の友人枠を獲得したのかはわからないが、不毛な恋であることは確かだった。
ウラノス王太子殿下とサミア公爵令嬢の結婚はよほどのことがない限りなくならない。
サミア様が王家に嫁ぐことは、王家とプルート公爵家との密約、悲願が背景にあると言われている。
それでも近くにいられるだけで幸せなのだろうか。
あるいは、ウラノス王太子殿下にサミア様ではない恋人がいるせいだろうか。
王太子殿下には側妃を選ぶという理由があるため、恋人がいても何も問題はない。
だが、サミア様が恋人をつくることはない。恋人をつくれば王太子殿下との婚約はなくなるからだ。
つまり、実ることがない恋を、ソランジュの婚約者オーリオはしていた。
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