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しおりを挟む2年前に結婚したルチルは優しい夫タイラーと可愛い息子ジェイドと幸せに暮らしている。
と、誰もが思っているのは知っている。
だけど、ルチルには結婚当初から、いや、婚約した4年前からタイラーにモヤモヤとした不満があった。
ルチルは侯爵令嬢で、父親が家との繋がりなどを考えて婚約者にと選んだ令息が3人いた。
『この3人の中からルチルが選んだ者が婚約者だ』
父がそう言い、ルチルは3人の令息の名前と爵位、噂などからタイラーを選んだ。
そう。自分がタイラーを選んだことは間違いない。
だって、
1人目は伯爵令息で女性の噂が絶えない美形。
2人目は侯爵令息で研究に夢中で子作りには協力するが子供の教育方針と領地の仕事は任せたい男。
3人目が侯爵令息のタイラーで、隣国での留学と仕事を終えて帰国したばかり。
この3人の中だとタイラーを選ぶのは当然じゃない?
顔合わせでも優しそうな人だなって思ったし、特別美形でもないから騒がれそうな華やかな顔ではないし、身長も体形も極々標準といった感じで落ち着く人だと思った。
学生時代から5年も留学していたから、婚約者がいないままだったと恥ずかしそうに言ったのも可愛いと思った。
その留学も学生時代の友人を通じて領地の特産の販路を広げるためのもので、その目途がついたために帰国したと真面目に働く姿勢も好感度が高かったから。
だから、タイラーを婚約者に選んだ。
婚約時代から、贈り物もしてくれるし、交流時間も作ってくれて、月に一度は外でデートもした。
4歳下のルチルをちゃんと婚約者として扱ってくれて、嬉しかった。
だけど、タイラーは紳士すぎた。
婚約時代、一度もキスすらしなかったのだ。
エスコートでの接触も最低限で、他人と変わらないのでは?と思う距離。
好かれていないのではないかと思ったけれど浮気しそうな人ではないし、徐々に仲が深まるだろうと考えていた。
だけど、一向に縮まらない距離感にモヤモヤした不満を感じていた。
自分に隙がないのかな?とも思い、友人に普段どんな雰囲気や場所でキスをするかを聞いてみた。
「馬車とか、部屋の中とか。
侍女や侍従に言って少しだけ2人きりにしてもらうの。
もちろん、キス以上なんてできない少しの間だけよ?
慣れてきたら、別れ際に侍女たちの方からいなくなってくれるわ。
あとは、庭園の散歩中、死角に入った時にチュッとされたり。」
「そんなもの?」
「そうよ。最初は婚約者が言ってくれたわ。『1分だけ2人にしてほしい』って。
それからは目配せとかでサッといなくなるわね。私も望んでいるってわかってるし。
ルチルの婚約者は真面目な方なのね。結婚してから爆発するんじゃない?」
友人の言う爆発とは、結婚して妻になったことによって自制が効かなくなり熱烈に求めてくるのではないかということだった。
そうかも?なんて、その時は恥ずかしながらも思ってた。
だけど、結婚してからも爆発なんてなかったわ。
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