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しおりを挟むライガーがセラヴィに求婚することになった経緯を聞くのも変な感じに思ったが、いきなり求婚されても『どうして急に?』と聞くことになるので同じかと思った。
しかも、話を聞いている間に父はいなくなっていた。
マッシュ侯爵も一緒に来たそうで、父親たちは別室で話をしているのだろう。
お茶を準備してくれたセラヴィの侍女シャナが残っているだけだった。
「急にごめんね。陛下に聞かれた時にセラヴィ嬢のことしか考えられなかったんだ。」
それはどういうことだろう。
直近で会った令嬢がセラヴィだったからなのか、女性として好意を持ってくれていたのか。
そんなセラヴィの疑問を感じ取ったのか、ライガーは言った。
「僕は領地にいるから確かに令嬢と出会う機会は少ないし避けていた。独身でいようと思っていたしね。
君が領地に来て、いろいろ我慢や無理をしていることはわかった。
逃げたくて仕方なかったというような婚約なら破棄されて嬉しいだろうけど、大概は傷つくからね。
僕も似たようなものだった。
だけど君は立ち直りが早かった。毎日妹と楽しんでいる姿が可愛かった。
ワインを飲んで寝てしまった時かな。君を一人の女性として好意を抱いたのは。
だけど楽しそうに卒業後の生活を考えている君に告白はできなかった。
侯爵令嬢と釣り合う爵位もなかったし、一人立ちもできていないからね。」
領地の管理も立派な仕事なのに、ライガーにとって自領を手伝うのは一人立ちしていないという認識なのかもしれない。
通常、爵位を継がない次男・三男は騎士や文官になることが多い。
だが、跡継ぎの補佐として一緒に仕事をする人もいれば、領地の管理を任させる者もいる。
学園を卒業直後に婚約を破棄することになったライガーは領地に籠ることを選んだ結果、そのまま領地の仕事をしているという。
「偶然が重なった結果だとわかっているんだ
君が領地に来てくれたことも、僕の趣味を聞いてくれたことも、王都に呼んでくれたことも。
だけど、その結果、伯爵位と領地を賜った。まるで君に求婚できるように整えられたようだった。
セラヴィ嬢、僕は勇ましさや無謀さがない無難に生きることしかできない男だけど……
あなたが好きです。一緒に幸せになりたい。僕と結婚してくれませんか?」
「はい。私でよろしければ、よろしくお願いいたします。」
「ありがとう。とても嬉しい。君と結婚できるなんて幸せだよ。」
セラヴィはライガーの告白がスッと心に入ってきた。
元々、好感を持っていた人だ。これが自分の本当の初恋になる。そんな確信があった。
「ですが、結婚に勇ましさや無謀さが必要なことってそんなにあります?
私は9割方無難に生きることの方が好ましいですわ。」
「その言葉もとても嬉しいな。呪縛が解けそうだ。」
ライガーは婚約破棄になった令嬢に言われたのだと言った。
元婚約者は、『ライガーの真面目で無難なところが嫌い。私を情熱的に求めてくれるような男がいい』と言い、彼女の望むような『情熱的な勇ましさで無謀にもライガーから奪ってくれた男』の子供を宿したから婚約解消してほしいと言ってきた結果、もちろん多額の慰謝料を貰って婚約破棄となったらしい。
しかし、半年ほど前、その元婚約者からライガーは復縁を求められた。
結婚した直後から、夫は浮気を繰り返していて仕事をしないという。
ライガーは婿入り予定だったのだから、その夫も婿入りしたのだろう。
役立たずの婿に、元婚約者の両親が離婚を言い渡した。
そして再婚相手に望んだのが元婚約者のライガーだった。
もちろん、ライガーに話が伝わる前にマッシュ侯爵が断ったのだが。
「再度、結婚する気が失せたとこだったんだけど、セラヴィ嬢に会えて良かった。」
「私も。一人で楽しみを探そうと思っていたけれど、二人ならきっと、もっと楽しいわね。」
日々は無難でいい。小さな幸せを積み重ねていきたい。
毎日のように、何かしら出来事が起こるようなことは疲れるし飽きるわ。
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