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しおりを挟むその後、トレッドは二日学園を休み、三日目に学園に来たが様変わりしていた。
髪はボサボサで目の下にはクマができ、頬はこけて殴られた跡もある。
その異様な姿に、教室に来るまで遠巻きに見ていた者たちも後をつけてきたのか、廊下に大勢がいた。
「セラヴィ、君のせいでナリアが国に帰ってしまった。」
どうしてセラヴィのせいなのだろう。経緯を知っている者たちは首を傾げた。
「だが、僕はいいことを思いついたんだ。セラヴィはまだ僕に未練があるのだろう?
もう一度婚約しようじゃないか。そして例の鉱山を持って嫁いで来てくれたらいい。」
それのどこがいいことなのか、誰もわからなかった。そして未練?何を言っているのだろうか。
「……お断りしますわ。あなたと再婚約することのどこがいいことなのでしょうか。」
「どこって。僕と結婚できるし、次期伯爵夫人になれるんだよ?
君の父上だって言ってたじゃないか。18歳の君に相応しい新たな婚約者が見つかるわけがないって。
このままだと後妻で老人に嫁ぐとか、未婚のまま笑われる一生を送ることになる。
それを僕が救ってやるんだから、嬉しいだろう?」
どこが?
確かに、ひと昔前はそういう時代もあったらしい。
だけど今は、後妻になるのもお金で実家を助けるためだと割り切る令嬢も多い。夫の死後に自立できるだけの財産を受け取る権利も今はあるのだから。
それに、未婚のままの令息令嬢も多い。結婚して退職するよりも、長く信用できる者に仕えてほしいという風潮に変わったからだ。仕事を教えても辞める者が相次げば人材は育たないため困っていたので未婚でも問題ない。
後妻や未婚で笑われる時代ではないのだ。
それにセラヴィは侯爵令嬢。
未婚で過ごすのであれば、王族女性の話し相手としてずっと側に侍ることも可能である。
というか、後妻や未婚になるかもしれないとわかっていて婚約解消を告げたトレッド自らがまた婚約して救ってやるという上から目線なのが不愉快だ。
「いえ、全く嬉しいとは思わないわ。それに鉱山を持って私と結婚だなんて下心満載ね。
それでナリアさんを繋ぎ止めて愛人にする。彼女が満足したら私と離婚して彼女と再婚する。
どうせ、そんな思いつきなんでしょう?」
トレッドは『なぜわかったのか』と言うような驚きの表情をしていた。
話を聞いている周りの人のほとんどが私と同じ結論に達したと思うけど?
あら。先生が来られているわ。
でもこの騒ぎを止めないところを見ると、最後までやってしまえってことかしら。
「い、いや、そんなことは。だ、だが、セラヴィは僕が好きだろう?また婚約できたら嬉しいだろう?」
「いえ?全く。あなたへの気持ちなんてこれっぽっちも残っていないわ。
そもそも、元からあったのも婚約者としての情だったんだもの。
それでも確かに傷ついたわ。でもそれは、10年も無駄にした自分の時間を惜しむ傷だった。
あなたのいない長期休暇、とても楽しかった。心の傷が癒えたわ。とても簡単に。
戻らない時間を悔やんでいては傷も癒えないとわかったの。
今を、未来を大切に、前向きに楽しむことで傷が癒えてとても幸せに感じたわ。
だから、過去のあなたはもう要らないの。わかったかしら?」
トレッドはセラヴィのきっぱりとした拒否に、自分の思いついた計画がガラガラと崩れ去る音を聞いた。
ナリアを取り戻せない。
父から言われた、セラヴィの情にすがることも、再婚約するという目的も果たせなかった。
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