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婚約者というラベルを剥がしてトレッドのために手伝ったことを思い返すと、セラヴィは確実にいいように扱われていたと気づいた。

ミンディーナが言った。


「生徒会の人たちやクラスメイトの中にもね、トレッドが張りぼて男だとわかっている人がいるわ。
 セラヴィがいないと何もできない男なんだもの。」


顔だけ男に張りぼて男。トレッドのあだ名はいくつあるのかしら。


「トレッドをそんな男性にしたのは私ね。
 昔、トレッドが悩んでいた問題を教えたのよ。それからは教えることが当たり前になって。
 トレッドのお父様である伯爵様からも、助けてやってほしいって言われたし。」

「セラヴィのせいじゃないわ。考えることを放棄して頼ることを選んだのはトレッドだから。」

「そうだよ。君のせいじゃない。セラヴィ嬢、伯爵様から言われたことって他にもあるかな?」


伯爵様から言われたこと……いろいろあるわね。だけど……


「少し思い出したけど、伯爵様よりも前伯爵様であるトレッドのお祖父様に言われていたわ。
 『トレッドとずっと仲良くするんだよ』『トレッドと結婚すれば君の家族は喜ぶよ』とか。
 『初恋同士が婚約して結婚できることはいいことだ』とも言われたわね。
 お祖父様が亡くなって、伯爵様にも同じことを言われたわ。
 物心ついたころから当たり前のように。……洗脳みたいね。」


自分で言って、そうだろうと納得していた。
人を疑うということを、今までほとんどしたことがない。
小さな頃から祖父同士、父同士が仲が良かったことから、言われたことは素直に聞いていた。

トレッドと仲良くしなければならない。好きにならなければならない。助けなくてはならない。

これを当然のように思っていたから、疑問を感じたことがなかった。


「あぁ、大人の関与があったのか。彼はそんな策略家じゃなさそうだから誰だろうと思ったんだ。
 彼の祖父と父親か。侯爵家との縁を望んだのかな。
 せっかく結婚まであと少しというところで婚約破棄。伯爵は大激怒だろうね。」
 
「いい気味だわ。セラヴィ、これで良かったのよ。結婚していたら大変だったわ。
 それに、本当に初恋同士なの?それも思い込みでしょ?
 どうせ子供のころに『トレッドのことは好きかい?』『うん』『じゃ初恋だ』って感じじゃない?
 好きか嫌いかって聞かれたら嫌な子だって思っていない限り好きって答えるのが子供だもの。」
 

……まさしくそんな感じだった気がする。
 

「トレッドも同じだったのかもしれないわ。
 私は婚約者という名の幼馴染のままで、ナリアさんが本当の初恋だったのかも。
 だって私たち、仲は良かったけれどキスすらしたことがなかったわ。」


ライガーとミンディーナは驚きながらも納得したようだった。


「どちらかが本当に相手に恋をしていたのなら、進展していた可能性はあったかもね。
 でも、どちらもが偽物の恋だったから幼馴染の好意止まりだったってことね。」

「……まだ悲しいという気持ちがあったのは、幼馴染としての未練かしら。」

「ずっと一緒にいた弟もどきが手を離れたとでも思えばいいんじゃないか?
 身近にいた者が去る寂しさを感じるのは当然だよ。でも、それも慣れだ。」


ライガーの言葉に、兄ではなく弟と変なところに引っかかった。
確かに兄と慕うような頼もしさは全くない。どちらかと言えば頼りない弟。まさしくそうかも。 


滞在2日目にして、悲しみすら吹き飛ぶ思いで笑ってしまった。
 


 




 
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