心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
15 / 36

15.

しおりを挟む
 
 
マッシュ領に着いた初日から、ライガーとミンディーナによって暴かれたセラヴィの心の内。

早めの夕食を終え、ベッドの中で眠りにつく前にも考えてみた。


トレッドへの恋心は、確かにあったと思う。
だけど、それは『婚約者』だから好きになるものだという使命感もあったようだ。
言われてみれば、幼馴染の域を抜けていたかどうかも疑問。
純粋な恋心であれば、トレッドの行動を傍観できたはずがないと言われて納得。

幼馴染のラベルの上に婚約者のラベルが貼られたようなものだったような気がした。
それを剥がせば、隣人?知人?

どうしてそんな使命感で幼馴染や婚約者の枠にはまった感情を持たなければならないと思っていたかは謎だけど、トレッドを単なる元婚約者で元幼馴染の隣人・知人と思えるようになれば、学園で2人が一緒にいる姿を見ても辛くはならないのではないかと思った。

そうなった時が自分の心が癒えた時だと言えるのだと思う。

だけど、まだ悲しい。

この悲しみについては、また明日考えよう。


セラヴィは、泣くことなく眠りにつくことができた。 




翌朝、侍女のシャナに起こされるまでぐっすりと眠っていたセラヴィは、清々しい朝の空気を感じて嬉しくなった。


「おはようございます。セラヴィ様。」

「おはよう。シャナ。久しぶりにぐっすり眠れたわ。気持ちの良い朝ね。」

「はい。いいところですね。朝食前に散歩に出るのもいいですね。」


シャナが楽しそうに張り切っているのは、セラヴィがよく眠れたことと、目元が赤くなったり腫れたりしていないことが嬉しいからだろう。

気づいていても指摘することなくセラヴィの世話をしてくれていたが、心配していたことはわかっていた。

……悲劇の主人公のように悲しんで、でも『そのことには触れないで』という態度を自分がしていたことを思い出して恥ずかしくなった。

失恋した女性はウジウジといつまでも悲しむものだなんて、恋愛小説の受け売りだわ。

 




朝食の場所に案内されるとライガーが既に来ていた。


「おはよう。よく眠れたかな?」

「おはようございます。もうぐっすりと。」


席に座るとミンディーナもやってきた。


「おはよう。セラヴィ、お兄様。
 あらセラヴィ、スッキリした顔ね。よく眠れたようで良かったわ。」

「おはよう、ミンディーナ。気持ちのいい目覚めだったわ。」

「王都と違って領地って空気まで美味しく感じるわよね。お腹がペコペコだわ。」
 

ミンディーナが席に着くと、朝食が運ばれてきた。
領地特産の色鮮やかな野菜や小麦で作ったパンなど、昨夜の夕食とまた違う味わいを楽しんだ。


午前中は街へ遊びに、ライガーとは午後のお茶の時間を一緒に過ごすことになった。

 
歩きやすい靴にワンピース姿で街に行き、護衛がいる平民には見えない令嬢2人がはしゃぐ姿も温かく受け入れてくれる街だった。
というのも、ミンディーナがお転婆令嬢で子供の頃から顔が知られているせいだったが。

王都でも2人で買い物やお茶をすることもあったが、周りに貴族も多くて気が抜けない。
領地ではトレッドと街に行くことはあっても、女友達とは買い物をしたことがなかったので、セラヴィはとても楽しんだ。



そして、屋敷に戻ってライガーも含めたお茶の時間、セラヴィは思い出したトレッドへの不満を口にした。 




 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...