心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
14 / 36

14.

しおりを挟む
 
 
セラヴィはトレッドを信じていた。

本当に?

トレッドの性格を知っていたのに?


「私はトレッドが婚約者だから戻ってくるのは当たり前だと思っていたわ。
 卒業すれば、彼女は国に帰るだろうから会わなくなる。
 会わなければ、いずれ忘れる。
 自分の好みの女性と話す楽しみくらい、大した問題じゃないと思って何も言わなかったの。
 だけど、私はトレッドが彼女に一目惚れをした瞬間を見ていたの。
 それなのに、危機感を抱いていなかった。いろいろと矛盾してる?」

「そうだね。セラヴィ嬢が彼に注意をしなかったのは、婚約者なのだから戻ってくるのは当たり前。
 そこにお互いの感情は関係ないとそう思っているからだろうね。
 彼を信じていたというより、婚約者という縛りを信じていた。かな。
 一目惚れしたのが分かれば、大方の婚約者は危機感を抱く。
 自分の方に向かせようとする努力、相手と親しくならない手回し、そして婚約の意図。
 婚約は家同士の約束でもある。それを思い出させることによって踏みとどまらせる。 
 それを何一つすることなく、他の女性と親しくなるのを見ているのは苦痛なはずだよ?」


ライガーの言葉に、愕然とする。

危機感や苦痛を感じていなかった自分は、本当にトレッドが好きだったのだろうか。
信じていたのは、『婚約者』という縛り?

確かに、婚約すると余程でない限りは解消することはない。
トレッドとはずっと仲良く過ごしてきたから嫌われることはないと思っていたし、何があっても戻ってくると思っていた。

その根拠は『婚約者』だから?

私がトレッドに愛されているから、ではない。
私がトレッドを愛しているから、ではない。


「トレッドがね、『彼女と結ばれない自分の思いが可哀想』って言ったの。
 その時にね、一番可哀想なのはそんな男と10年も婚約していた私じゃないかって思ったの。」


ミンディーナとライガーは唖然としていた。
そうよね。私、自分で自分が可哀想だって思っていたんだわ。しっかり自分を憐れんでいたのね。
そのことに気づかないで、ここまで連れて来てもらって申し訳ないわ。


「トレッド、バカじゃない?自分の思いが可哀想? 
 そんなことを馬鹿正直にセラヴィに言うなんて。
 セラヴィ、あなたは間違ってないわ。
 あんな男を好きだと思っていた自分を憐れむのは当然のことよ!」


え?そっち?ライガー様も頷いているわ。


「えっと、私はトレッドに失恋したからじゃなくて、自分が憐れだから悲しんでもいいの?」

「うん。セラヴィ嬢は自分を労わってあげたらいいんじゃないかな。
 自分を癒してあげられたら、前を向けると思うよ。
 もう『婚約者であるトレッド』を好きになる縛りはない。彼はただの知人に成り下がった。
 思い出しながら悪口でも言ったらスッキリするんじゃないかな?」

「あっ、それいいな。
 私、セラヴィには言えなかったけどトレッドの気に喰わないところいっぱいあったの。」


そう言えば、トレッドを顔だけ男だとミンディーナは時々言ってたわね。 
顔だけって顔以外はダメってことよね。

 
セラヴィは思わず笑ってしまった。
 






 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

処理中です...