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しおりを挟む伯爵の苦し紛れの脅しを最初から受けるつもりもなかった侯爵は淡々と手続きに移った。
「条件通り鉱山は返してもらうし、婚約破棄の慰謝料も払ってもらう。
そしてもちろん、領地での優遇措置も終わりだ。
私たちの友人関係もな。これからは単なる隣人となる。」
「ま、待ってくれ。
婚約破棄だとセラヴィ嬢の次の縁談に響くのでは?
やはり婚約解消の方がいいと思うのだが……」
「婚約破棄で構わない。
今更、婚約解消と繕おうとしてもお前の息子はいろいろとやらかしてくれたからな。
まぁ、街でのことがなかったとしても、トレッド有責なんだ。破棄は変わらない。」
婚約解消は、双方が円満に別れたと認知され、慰謝料などは発生しない場合もある。
慰謝料を払うにしても、感謝の気持ちととられることもある。
しかし婚約破棄は、婚約を続けられない原因となった方に慰謝料を払うことが定められている。
婚約時にその金額を取り決めることもある。
今回の場合、事前に定めた金額は侯爵令嬢として相応しい金額。
しかも、年齢によって慰謝料は年々増額する設定だった。
18歳になったセラヴィとの婚約破棄は、伯爵家にとって多額だった。
だからこそ、鉱山と相殺しようだなんて発想になったのだろう。
トレッドのしたことは婚約解消で許されることではない。
もう18歳のセラヴィには新たな良縁は望めないし、本人も結婚したくないと言うほどだ。
しかも、手続きを済ませていないにも関わらず大勢の人にデートしているところを目撃されて、セラヴィは子爵令嬢に婚約者を横取りされた侯爵令嬢と言われ始めているそうだ。
たった一日で噂が恐ろしく早く回っている。トレッドの言動のせいだ。
こんなに知れ渡って、それでも解消で済ませれば伯爵家を許したことになってしまう。
解消だろうが破棄だろうが、今更セラヴィに相応しい相手などいないのだ。
ならば破棄を選ぶのは当然であるし、周りもそれが当然と思っているはずだ。
行政代理人に指示をして、伯爵にこれ以上有無を言わさず婚約破棄の書類にサインをさせた。
鉱山の手続きも済ます。
慰謝料の金額が記された書類にも、伯爵は震える手でサインをした。
行政代理人が淡々と言った。
「書類は責任を持って手続きさせていただきます。
慰謝料の支払い期日はお守りください。
でなければ、徴収に伺うことになりますし財産査定人を向かわせることになりますので。」
財産査定人とは、屋敷内にある値がつくものを査定して慰謝料に充当できるものを運び出してしまう。
場合によっては、屋敷ごと売られることになり王都での住処をなくすのだ。
足りなければ領地の屋敷にある物まで運び出す。
貴族としてはとても恥ずかしいことだ。
そうなる前に、金が足りなければ自らコッソリと換金し始めることになるのだ。
そう。まずは使用人の数を減らすことや、夫人の宝石といった小さいのに値が張る物から売ることになるのだが、現時点での伯爵家はそこまで貧乏ではない。
セラヴィへの慰謝料は十分に支払える。
ただし、伯爵が危惧したように、信用を失うであろう伯爵家の今後はどうなるかは今のところは不明である。
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