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しおりを挟む侯爵令嬢セラヴィは10年前から伯爵令息トレッドと婚約している。
領地が隣同士で親同士も仲が良い。
婚約を望んだのはトレッド側からだったらしく、セラヴィの両親は少し難色を示したらしい。
格下の伯爵家に嫁がせなくても、まだ子供のセラヴィの嫁ぎ先は選べたからだ。
しかし、セラヴィとトレッドの仲の良さと、どうしても政略結婚を強いなければならないほど金に困っているわけではないため、条件付きで婚約が結ばれた。
それから10年、何の問題もなく2人は仲良く過ごしてきた。
だが、亀裂が入り始めたのは、学園の最終学年になってからだった。
ある日、トレッドとぶつかった令嬢がいた。
ナリア・キンケイド子爵令嬢。隣国からの留学生だった。
トレッドはナリアを見て、一瞬で恋に落ちた。
「大丈夫だったかい?」
「ええ。ぶつかってしまってすいませんでした。お怪我はありませんか?」
「軽く当たっただけだよ。はい、荷物。」
トレッドは落ちていた荷物をナリアに渡した。
受け取るナリアの指がトレッドに触れたのも気づいた。
「あっ!ごめんなさい。ありがとうございます。」
顔を真っ赤にしてナリアは去っていった。
トレッドは触れた指を、もう片方の手で包み込むようにして彼女を見送った。
セラヴィはそれを真横で見ていた。
ショックだった。
今まで、トレッドが他の令嬢を意識したことなどなかったのに。
去っていく彼女を目で追い続けているトレッドは、隣にセラヴィがいることすら忘れていただろう。
「トレッド?帰りましょ。」
「あ、ああ。」
セラヴィは内心の動揺を悟られないように、気にも留めていない感じでいつも通り振る舞った。
トレッドの婚約者はセラヴィ。
それが変わることはない。
ちょっとしたよそ見も、いつかは笑い話の種になる。
顔見知りになった2人が名乗り合った時も。
すれ違う時に2人が見つめ合っていても。
やがて、ナリアがトレッドに親しげに話しかけるようになっても。
ナリアの姿をトレッドが目で追い続けても。
ナリアがトレッドに触れた場所を、いつまでもトレッドが嬉しそうに擦っても。
そう信じていた。
友人のミンディーナに放っておいていいのかと聞かれたけれど、セラヴィはトレッドを信じたかった。
だけど、ミンディーナが気づいたくらい、トレッドとナリアは急速に距離が縮まっているように思えた。
トレッドと2人でいる時でも、ナリアは平然とトレッドにだけ話しかける。
やがて、ナリアが私たちに近づいて来るとトレッドからも近づいて行くようになり、セラヴィは一人、取り残されることが増えた。
仲の良かったセラヴィとトレッドの関係は、誰から見ても以前とは違った。
セラヴィもわかっていた。
だけどナリアは卒業すれば自国に帰るだろうから、トレッドは会えなくなる。
会わなければ問題はなくなる。
可愛い女性に浮かれてしまっているだけで、卒業すれば元通り。
そう思い、トレッドが戻ってくるのを信じていた。
だが、トレッドとナリアの2人が出会ってから4か月後、長期休暇に入る直前にトレッドから婚約解消をお願いされた。
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