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しおりを挟む聖女アイビーの護衛となったコルト・パキラスは、数年以内に新聖女が誕生するであろうことを見越して前聖女の護衛騎士後任を募集していた時に立候補した。
前聖女の年齢からいって王太子殿下は新聖女を妃にしなければならないとわかっていたのに、妹クレオリアはその事実を受け入れたくないようだった。
殿下は自分だけを見てくれる。クレオリアはそう信じていた。
ならば、新聖女が二人の仲を壊したりしないように、特にクレオリアと新聖女が顔を合わせる機会を調整できるように、とコルトは聖女の護衛騎士となったのだ。
クレオリアがいても、殿下は聖女を愛する可能性もある。
聖女も殿下にとっては妃になるのだ。
平等とはならなくとも、妃として閨を共にしなければならない。あるいは、子供を望まれるかもしれない。
王族として育ってきた殿下は妃が複数人になることを見越した教育を受けているはずだ。
そうなった時に、クレオリアは耐えられるだろうか。
コルトにできることは聖女との接触を少なくすることくらいだろう。
新聖女がどんな女性になるかはわからないが、攻撃的な女性でないことを願った。
そして新聖女となったのが、子爵令嬢アイビーだった。
まさか貴族令嬢が聖女になるとは……平民の方が多いためその可能性が高いと思っていた。
まだクレオリアは王太子殿下と結婚していない。
貴族である新聖女が王太子殿下の正妃となるのが慣例だった。
だが、新聖女アイビーは、王太子妃になることに難色を示した。
王太子妃教育を受けるつもりはない、殿下とクレオリアの仲を引き裂きたいとは思わない、自分を正妃にしても子供を作らないので側妃が必要になると暗に言う。
国王陛下はそれを我が儘だと思ったようだが、コルトは面白い令嬢だと思った。
クレオリアを正妃に、聖女アイビーを側妃に。
そうなれば、何の問題もなくなるのではないか。
聖女アイビーは自分がお飾りになることを望んでいるのだ。王太子殿下はクレオリア一人のものだ。
王家が過去の聖女のことを調べてから、聖女が王太子殿下の正妃になるか側妃になるか、あるいは王族と結婚しない道もあるのかを検討することになった。
聖女アイビーと行動を共にし始めると、やはり新聖女に擦り寄ってくる者もいたが、それ以上にクレオリアを守ろうとする者たちに驚いた。
クレオリアを慕ってくれる気持ちは有難い。そこに未来の王太子妃に擦り寄っている者がいたとしても。
だが、違和感もあった。
何もしていない聖女アイビーに対し、敵意があからさま過ぎる者が多いのだ。
聖女の授業中や、移動教室のない休憩時間などを使って調べてみた。
すると、原因はクレオリアにあった。
妹は、王太子殿下を聖女に奪われると同情を誘うように涙を見せていた。
周りが聖女にいい感情を抱かなくなるのがわかるのに、クレオリアは何も言わない。
質が悪いと思った。姑息だと。
そして王太子殿下が昼休憩時に誰と接しているか、監視している者もいた。
なのでコルトは、周りがどう出るか、少し護衛から外れて見ていた。
聖女に近づくクレオリアと仲の良い令嬢たち。
それを少し離れた場所から眺めながらも止めもせず、どんな結果になるかを見ているクレオリア。
そんなクレオリアと聖女たちをコルト見ながら思った。
他力本願で言いたいことを自分で言わず行動もしない妹が王太子妃に、後の王妃になるのか?
コルトは、おそらく何の責任を負うことも感じることもない妹に不安を感じたのだ。
なので、聖女の方が王太子妃に相応しいと口にしてしまった。聖女には嫌がられたが。
そして聖女が嫌がったことを嬉しく感じたのは、コルト自身が聖女のことを好ましい令嬢だと思い始めているからに他ならなかった。
聖女アイビーが王太子殿下と結婚しないで済むとしたら?
コルトが手に入れることは可能だろうか。
そこまで考えて先走る自分の感情に苦笑した。
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