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しおりを挟む教会にいる治癒者たちの実情について、サニード王太子殿下に話せないまま週末になった。
王家からは特に何の連絡もないので、いつも通り教会で一日を過ごすことになる。
もちろん、護衛であるコルト様も一緒だった。
朝から夕方まで。
下級の治癒魔法で足りると判断された症状は、アイビーには回ってこない。
アイビーに回ってくる多くは、骨折やひどい捻挫、うっかり魔物に引っかかれた傷などが多かった。
ここ数日でわかっていたけれど、治癒する速さがずいぶんと変わった。
中級から上級に、つまり聖女になったからだと明らかに感じた。
まだ聖女としての治癒力を必要としている人を治していない。
王家から連絡がないということは、そういうことだろう。
つまり、聖女の仕事はそれほど多くないということ。
……というか、いつもの暮らしを続けられるとは思っていなかった。
私が過去の聖女様について調査してほしいと言ったからかな?
王宮に隔離されるんじゃないかとも思っていたので自由に動けることは嬉しいけれど。
何か、聖女って存在も案外普通な気がしてきた。
治癒魔法の上級が使えるというだけだものね。
せめて今のままで学園を卒業したいわ。
前聖女ラナ様の国葬は、1週間後に決まった。
その時にアイビーが新聖女であることを国内外に知らせることになる。
単なる顔見せで、私は特にすることはないらしい。……本当に?
前回の65年前のことを記憶している人などいないので手順に右往左往で。
昔の資料を見ながら、王族の葬儀とも照らし合わせながら、らしい。
……王太子殿下だけでなく、王城で働いている人たちも平和ボケのポンコツ頭ではないかと心配になる。
教会での仕事を終え、学園寮へ帰りながらコルト様が言った。
「聖女様が教会のことについて何をおっしゃりたいかが、少しわかった気がします。」
さすがに一日教会で過ごすと気づくだろう。
「私みたいな貴族はまだいいのですけどね。平民の方たちの待遇を何とかしたいのです。」
治癒魔力を持つ貴族と平民の違い。
これは、どの時代かで貴族側が訴えたことで今の状況になっているのだと思う。
治癒魔力を持つ貴族令嬢は、学園にも通えるし結婚もできる。その他の時間は教会に縛られるが。
領地内の教会に中級の治癒者がいなければ、政略結婚もあり得るほどに。
ただ、貴族だから中級というわけではない。下級の令嬢もいる。
もちろん、圧倒的に平民の方が人口が多いため、治癒魔力を持つ貴族令嬢は少ない。
婚約者のグリッチとは魔力が判明する前に婚約していた。
なので、アイビーの魔力が治癒だとわかるとグリッチの両親はとても喜んだが、グリッチ本人は教会に通うことになった私と会う機会がなくなり、どんどん関心をなくして手紙すら来なくなったのだ。学園でも関わらない。
しかし、治癒魔力を持つ令嬢との婚約を解消することは余程でないとできないという決まりがあった。
金でアイビーを買う争奪戦が始まる可能性があるからだ。
様々な前例により、今の形に落ち着いたのだろう。
ちなみに平民は、魔力が判明した教会に所属することになり、移動はできないことになっている。
「司教様にも何度か彼女たちの待遇改善を上に訴えてくださるようにお願いをしたのですが、司教様止まりなのか大司教様止まりなのか、あるいは王城に上がる議題で却下されているのか。おそらく、王太子殿下は何も知らないと思います。ひょっとすると国王陛下もご存知かどうか。」
「貴族ではなく平民に関することとなれば、議題に上がりにくいかもしれません。
本来であれば、大司教が働きかけるべき案件でしょうが、今の大司教は事なかれ主義ですからね。聖女様から働きかける方が伝わるかと思います。」
事なかれ主義、かぁ。あの大司教様のコロコロの体を見るたびに腹が立つんだけどっ!
それにしてもコルト様って、こうして長い時間一緒にいても礼儀正しいわ。
横柄な感じは全くしないし、真面目だけど話しやすい。
会話ができない人にずっとそばにいてもらうのは苦痛だけどコルト様の話し方は好感が持てる。
初めは人選がおかしいと思ったけれど、目の保養にもなる美形だから感謝だわ。
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