6 / 29
6.
しおりを挟む聖女ラナ様がお亡くなりになったことは、王城に弔旗と共に聖女の紋章が掲げられることで周知される。
そして後日、国葬が行われる際に新聖女の公表が行われる。
しかし、アイビーの手の甲に紋章があるし、聖女になった瞬間を見ていた人たちもいる。そして謁見の間にいた貴族たちの口からも新聖女が誰なのかが広まるため、公表される前には新聖女の年齢や貴族か平民かなどといった大まかな情報は誰でも知っていることになる。
知ったところで普通に暮らしている平民や貴族が聖女の治癒を必要とする機会などほぼない。
そもそも、治癒魔法が効くのは怪我と毒。病気には効かない。
治癒魔法は人によって威力が違う。魔力の多さと比例しないのだ。
一般的には、下級・中級のどちらかで、上級にあたるのが聖女になる。
下級は、切り傷や捻挫、毒の症状でも吐き気や下痢などの比較的軽い症状を治癒できる。
中級は、深い切り傷や骨折、魔獣によって負った傷、意識混濁などの重い毒の症状を治癒できる。
そして上級である聖女は、何日もかけて治癒するような傷でも早く治せるようになり、指や手を欠損してもその部位さえあればつなぎ合わせることができると言われている。
あとは呪いの浄化。これは呪われた者の沽券に関わるため極秘だとか。
貴族でも平民でも、呪われた経験があるということは誰かに恨まれているのではないかと思われるからだ。
つまり、普通に生活する上では中級までで十分なのだ。
聖女は本来、騎士団に所属するべきなのではないか。魔獣との闘いで傷ついた騎士を即座に癒すべきではないか。そのために聖女は傷を負わないのではないか。
だが、代々王族に嫁いでいる聖女が戦場に行くはずもない。
その時アイビーは思った。
戦場が怖かった聖女がいたのではないか。王族の妃になることで城に閉じこもったのではないか、と。
もしそうだったとすれば、王族になることを拒んだアイビーは戦場に行くことになるかもしれない。
アイビーも戦場は怖い。魔獣も見たくない。
自分は死なないとわかっていても、周りで即死する騎士は助けられないのだから。
トラウマになることは確実だ。そこまでの心の強さは持ち合わせていない。
聖女になったといっても、自分の性格が変わったとは全く感じていないし。
めんどくさがりな自分が期待に応えられるとは思わない。
だいたい、聖女は一人だけ。一か所にしか行けない。
つまり、聖女が一緒の騎士団は死亡率が下がるが、他はそうではない。
それどころか王都に戻ってきても聖女が居なければ手遅れになるかもしれない。
ああ、なるほど。だから聖女は戦場に行かないのだと理解した。
どこかを贔屓するのではなく平等・公平にするために、聖女は王都にいるのだ。
王都にいて、今まで通りに教会に来る怪我人を治癒する。たまに、聖女の治癒を必要とする人を治す。
王族と結婚する必要性はやはり全く感じない。
聖女の治癒魔法は遺伝じゃないのだから。女神様が選ぶのよ?
やっぱり聖女本人の意思を王家は受け入れるべきだわ。
今後の聖女のために、王家に従うばかりではなく選択肢を増やしてみせるわ。
すでに国王陛下には自分の意見を言ったことで我が儘だと言われたもの。新聖女は我が儘な令嬢だと周知されるでしょうね。
でもそんなこと気にしない。不敬に思われても殺されることはないのだから、言いたいことを言わせてもらうわ。
1,168
お気に入りに追加
1,993
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる