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聖女ラナ様がお亡くなりになったことは、王城に弔旗と共に聖女の紋章が掲げられることで周知される。
そして後日、国葬が行われる際に新聖女の公表が行われる。

しかし、アイビーの手の甲に紋章があるし、聖女になった瞬間を見ていた人たちもいる。そして謁見の間にいた貴族たちの口からも新聖女が誰なのかが広まるため、公表される前には新聖女の年齢や貴族か平民かなどといった大まかな情報は誰でも知っていることになる。

知ったところで普通に暮らしている平民や貴族が聖女の治癒を必要とする機会などほぼない。


そもそも、治癒魔法が効くのは怪我と毒。病気には効かない。

治癒魔法は人によって威力が違う。魔力の多さと比例しないのだ。

一般的には、下級・中級のどちらかで、上級にあたるのが聖女になる。

下級は、切り傷や捻挫、毒の症状でも吐き気や下痢などの比較的軽い症状を治癒できる。
中級は、深い切り傷や骨折、魔獣によって負った傷、意識混濁などの重い毒の症状を治癒できる。

そして上級である聖女は、何日もかけて治癒するような傷でも早く治せるようになり、指や手を欠損してもその部位さえあればつなぎ合わせることができると言われている。
あとは呪いの浄化。これは呪われた者の沽券に関わるため極秘だとか。
貴族でも平民でも、呪われた経験があるということは誰かに恨まれているのではないかと思われるからだ。

つまり、普通に生活する上では中級までで十分なのだ。


聖女は本来、騎士団に所属するべきなのではないか。魔獣との闘いで傷ついた騎士を即座に癒すべきではないか。そのために聖女は傷を負わないのではないか。

だが、代々王族に嫁いでいる聖女が戦場に行くはずもない。


その時アイビーは思った。

戦場が怖かった聖女がいたのではないか。王族の妃になることで城に閉じこもったのではないか、と。

もしそうだったとすれば、王族になることを拒んだアイビーは戦場に行くことになるかもしれない。

アイビーも戦場は怖い。魔獣も見たくない。
自分は死なないとわかっていても、周りで即死する騎士は助けられないのだから。
トラウマになることは確実だ。そこまでの心の強さは持ち合わせていない。

聖女になったといっても、自分の性格が変わったとは全く感じていないし。
めんどくさがりな自分が期待に応えられるとは思わない。

だいたい、聖女は一人だけ。一か所にしか行けない。

つまり、聖女が一緒の騎士団は死亡率が下がるが、他はそうではない。
それどころか王都に戻ってきても聖女が居なければ手遅れになるかもしれない。

ああ、なるほど。だから聖女は戦場に行かないのだと理解した。 

どこかを贔屓するのではなく平等・公平にするために、聖女は王都にいるのだ。

 

王都にいて、今まで通りに教会に来る怪我人を治癒する。たまに、聖女の治癒を必要とする人を治す。

王族と結婚する必要性はやはり全く感じない。

聖女の治癒魔法は遺伝じゃないのだから。女神様が選ぶのよ?

やっぱり聖女本人の意思を王家は受け入れるべきだわ。

今後の聖女のために、王家に従うばかりではなく選択肢を増やしてみせるわ。

すでに国王陛下には自分の意見を言ったことで我が儘だと言われたもの。新聖女は我が儘な令嬢だと周知されるでしょうね。

でもそんなこと気にしない。不敬に思われても殺されることはないのだから、言いたいことを言わせてもらうわ。




 
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