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4.
しおりを挟む今から約19年前のこと。
現国王陛下がまだ王太子殿下であった頃のことだ。
王太子ルドルフは一人の令嬢を妊娠させた。
婚約者であった侯爵令嬢ネフェリーナではなく、男爵令嬢ルネーゼリアを。
学園を卒業し、ルドルフとネフェリーナの結婚式をひと月後に控えていた時のことだった。
ネフェリーナの父、侯爵は、幼いころからの婚約者に対する裏切りだと婚約破棄を求めたが、近隣国に結婚式の招待状をとっくに送付済の上、もうこちらに向かっている国もあるだろうということで、今更中止するというのは国の沽券にも関わることだと国の重臣たちから説得され、やむを得ず男爵令嬢がルドルフの側妃になることを受け入れた。
しかし、側妃となるルネーゼリアが産んだ子供が王子であった場合も、正妃となるネフェリーナが産む子供が跡継ぎとなることを国王にもルドルフにも固く了承させたのだ。
そうして迎えた結婚式。
しかし、とんでもない事態が待ち受けていた。
ウエディングドレスを着て、あとは式の時間を待つだけだったネフェリーナが忽然と姿を消したのだ。
控室の近くにいた護衛たちは、ネフェリーナは部屋から出てきていないと証言した。
だが、控室の中にはいない。
出入りしていた使用人に成りすまして出たのだろうかと辺りを捜索させたがいない。
『控室にウエディングドレスがないことを考えると着たままのはずだ』
どこかに抜け道でもあるのかと控室の中を隈なく捜索した結果、クローゼットの床が外れた。
その中は抜け道ではなく収納庫。
ただし、人ひとりが余裕ではいる収納庫だったのだ。
ウエディングドレスを着たまま、ネフェリーナはその中にいた。
騒がしい中、動かない姿に、まさか、死んでいるのではないかと思った。
だが、眠らされているのだとわかった。
ホッとしたのは束の間。
もう式の時間は過ぎているのに、どうすればいい?
そんな苦悩はすぐに意味を為さなくなった。
『結婚式が始まっています!新婦は……ルネーゼリア嬢のようでした』
侯爵家側は悟った。
これは、王太子とルネーゼリアによって仕組まれたことだったのだと。
国内外からの参列者の前で結婚式を挙げるのは、王太子の正妃でなければならない。
側妃になる者と盛大な挙式をすることはないのだから。
王太子ルドルフの正妃はルネーゼリアなのだと公表されたのだ。
そしておそらく、侯爵令嬢ネフェリーナは側妃になるということも併せて公表されただろう。
ルネーゼリアの腹の子が正妃の子となるよう、そしてその子が第一子と認められるように、こんな非道な計画を立てて実行したのだ。
つまり、ネフェリーナが子を産んでも跡継ぎとなる約束は守られない。
彼女は側妃で、正妃ではないのだから。
その時にルネーゼリアの腹の中にいたのがグランツ。
グランツは男爵令嬢であった母ルネーゼリアの唯一の子供である。
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