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ロベリー公爵ジョーダンがオードリック辺境伯領を後にした。


「思ったよりもあっさりと王都に戻りましたね。」


リリィは正直言って拍子抜けした気分だった。
しかし、エイデン様はこうなるだろうと予想していたらしい。


「妊娠が決定打だな。公爵にとって妻であったリアンヌは自分のものだった。なのにリリィは自分ではない男の種を受け入れて、しかもそれが実を結んだとなると、もう必要ないと言うんじゃないかと思ったんだ。」


なるほど。エイデン様と結婚しただけでも汚らわしい思いだったのに、妊娠したとなると不用品に成り下がってしまったらしい。
汚れを綺麗に落とすだけでは済まないから。

自分は浮気をするのに、妻が自分以外の男を知るのは許せないことだったのだろう。

何はともあれ、ジョーダンの執着からはようやく逃れられたということになる。

結婚作戦は大成功だった。
 



リリィとエイデン様は本当の夫婦になることを決めた後、すぐに入籍するつもりだった。

しかしその前に、辺境伯様はリリィを貴族の養子にすると言い出した。
相手はポマド子爵家。リアンヌの実家だった。

ユートさんがリリィの手紙を実家に届ける時、辺境伯様も手紙を書いていたという。
リリィとして養子にしてはどうか、と。
そうすれば、両親が引退後、辺境でリリィと暮らすこともおかしくはない。

『亡くなった娘にそっくりのリリィを養子にした』

ただそれを言うだけで違和感はない。
 
幸い、ポマド家は子爵家のため、養子をとる手続きは簡単なのだ。
これが伯爵家以上であれば、少し面倒な手続きを必要とする。

ユートさんが書類を持ってポマド子爵家へ赴き、養子の手続きを終えてから、リリィはポマド子爵令嬢としてエイダン様と入籍した。

ジョーダンが辺境伯領に来る2か月前のことだった。

結婚後、エイダン様と閨を共にし、すぐに妊娠したのだ。

もちろん、ジョーダンを追い返すために妊娠を狙ったわけではない。 
授かりものなので、狙ってできるわけではないのだから。

だが、ジョーダンが辺境に来る数日前に妊娠が発覚したことは、神はこちらに味方してくれていると明るい気持ちになれた。



生まれたのは女の子だった。
騎士にするために男の子の方が望まれると思ったのだが辺境伯領ではなぜか男の子がよく生まれるので、女の子は久しぶりだととても喜ばれた。

  
エイダン様は結婚してから仕事一筋というわけではなくなった。
ちゃんと休日を取り、リリィと子供と過ごす時間をとった。
恋愛でも、政略でもなく始まった夫婦でも、心の距離も縮まり、思い合う夫婦となれた。
毎日、リリィと娘を抱きしめて幸せをかみしめているエイダン様はとても愛情深い人だった。



ポマド子爵家の両親とは、ジョーダンとの件が解決し、彼がロレッタ嬢と再婚したのを確認してから再会した。
その頃には妊娠5か月になっており、両親が辺境まで来てくれた。 

次は出産する頃にやって来て、その後は年に3回ほどオードリック辺境伯領に来るようになった。

そして3年後、両親は甥に子爵位を譲り渡して、本当にリリィの近くで暮らし始めた。 

『甥の子も可愛いのだけど、我が子と孫のそばで余生を過ごしたいのよ』

まだ40歳半ばで余生とは何を言っているのかと思ったが、近くにいてくれることはとても嬉しかった。
 

それから16歳になったメイジーは、12歳の頃から追いかけまわしていたユートさんを口説き落として結婚することになった。年の差12歳。祖父母であるマイクさんもランさんも安心して任せられると喜んでいる。



ジョーダンとロレッタ様の間に子供はいなかった。
ロレッタ様が子供ができにくい体なのかとも思ったが、おそらく子供を授けないことがロレッタ様への罰なのだろう。閨すら、共にしていない可能性もある。
そしてジョーダンは遊び相手との浮気をやめることもなく、ロレッタ様に屈辱を与え続けているだろう。

前公爵夫人は公爵領で暮らしているらしい。王都への立ち入り禁止が罰なのだろう。
社交界に出られなくなって、一気に老けたとか。引きこもりになったらしい。

アンソニーは健やかに育っているらしく、ロベリー公爵家の跡継ぎとして優秀な子らしい。 


エイデン様が時々、情報を調べて教えてくれるのだ。

本当に、優しい夫。

エイデン様に助けられてよかった。

戻る場所がなくなったのに、新たな場所でこんな幸せな未来が訪れるとは思ってもみなかったわ。
 



<終わり>
 
 
 

 
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