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しおりを挟む王都のロベリー公爵邸ではジョーダンがリアンヌの捜索をさせていた者たちからリアンヌと思われる女性が東の辺境にいたことを報告していた。
「オードリック辺境伯領か。三男が負傷したリアンヌを保護し、面倒を見ていたと?」
「約5か月、辺境伯の屋敷で過ごした後、姿を見た者はいないということでした。」
「辺境伯が平民の戸籍を与えたのだろう?であれば、リアンヌはどこかで働くはずだ。だが、リアンヌの素性を知っていて仕事の世話をしないはずはない。辺境伯あるいは三男はリアンヌの行方を把握しているはずだ。」
リアンヌの誘拐と葬儀は、もう戻る場所がないと思わせるに十分なことだ。
負傷していたリアンヌを保護した上に辺境まで連れて行き、戸籍まで与えて世話をしたのだ。
自分ひとりでは生活できない元貴族令嬢をそのままで追い出すことなどしないだろう。
どこか、彼らが目の届くところ、あるいは分家などに預けて仕事を与えているのかもしれない。
辺境は広く、分家も多い。さすがに捜索し続けるのは時間の無駄だと判断し、彼らは報告に帰って来た。
どこにいるかわからなければ、自ら出向くようにすればいいだけだ。
辺境伯も公爵である私に歯向かってまでリアンヌを保護し続ける意味はないのだから。
やはりリアンヌは生きていた。
ジョーダンは、母と元婚約者ロレッタが手を組んでリアンヌを追い出そうとしていたことに気づいていた。
ロレッタが開いたお茶会帰りにリアンヌを攫うこと。
そして南にある隣国の娼館に売る手筈になっていることは事前に掴んでいた。
更に、妻が死んだと思わせるために、遺体を用意するつもりだということも。
若い女性の遺体は娼館でよく手に入るらしい。
売られて自死を選んだ女、客に乱雑に扱われて行為中に死んだ女、病気になって死んだ女。
顔の原形がわからないようにズタズタにした遺体をリアンヌだとする計画らしいということも、全部事前に知っていたが止めなかった。
計画通りに進めさせた上で、こちらが馬車を奪う。そしてそのまま母たちに知られないようにリアンヌを匿うはずだった。
邪魔な母とロレッタの罪を明らかにした後、実はリアンヌは攫われていないし死んでもいないと公表するつもりだったのだ。
しかし、お茶会に向かったリアンヌの馬車はロベリー公爵家のものであったが、帰りの馬車が違っていたということを見張りの者たちが気づかず、リアンヌの乗った馬車を見過ごしてしまったのだ。
それにより、リアンヌは馬車ごと攫われてしまい、行方を見失ってしまった。
母とロレッタが雇った男たちがリアンヌを売るため指示通りに隣国に向かっていれば捕まえられた。
だが奴らはリアンヌを連れて隣国まで辿り着くことが難しいと思ったのか、あるいは初めから攫った報酬だけで満足だったのか、リアンヌをどこかに捨てたようだった。
それは密かにリアンヌを探し続けるように指示した捜索中に馬車が見つかったことからも、そう判断したことだった。
だが、遺体は見つかっていない。
どこかで生きているはずだ。
母はリアンヌが隣国の娼館に向かっていると思いながら、計画通りに空き家で見つかった女性の遺体をリアンヌに間違いないと証言した。
自ら首を掻っ切って自決したという新聞記事は、ロベリー公爵家の印象を守るために金を握らせて書かせたのだろう。
遺体を発見した者たちも、顔がズタズタだったなどと言えるはずもない。
リアンヌに似ても似つかぬ遺体について、ジョーダンは何も言わなかった。
ただ、母に知られぬように棺から遺体を出して処分させ、棺の中には砂袋を入れて蓋が開かぬように杭を打たせた。
リアンヌの墓には誰も入っていない。
リアンヌを見失った者たちには、リアンヌの捜索とポマド子爵家の見張りを言いつけた。
あれから1年と少し。
リアンヌであろう女性がようやく見つかった。
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