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エイダンは両親である辺境伯夫妻にリリィがリアンヌ元公爵夫人だということが元夫であるロベリー公爵にバレたであろうことを伝えた。
 

「ロベリー公爵は思った以上に執念深い男のようだな。リリィが自らの意思で公爵の元に戻らなかったということが理解できないのか。今更、生きていたと公表できる状況にないことはわかっているだろうに。」

「半年後にはロレッタ嬢との結婚式だというのに、リリィを迎えに来るかしら。」


両親の疑問はもっともなことだ。


「ロベリー公爵が迎えに来るつもりなのか、それともただ生存を確認したいだけなのかはわかりません。
ですが、リリィはいずれ公爵本人が辺境に来るだろうと思っています。」


自分たちよりもロベリー公爵に詳しいリリィがそう言うのであれば、おそらくそうなるだろう。


「そして、リリィはもう逃げるつもりはないとのことです。」

「そうか。決着をつけるのもいいかもしれない。リリィとして生きていく今後のためにもな。」 


彼らはリリィの居場所は把握していない。
そのため、ロベリー公爵はおそらくまず手紙を出してくるであろうことを両親に伝えた。

エイダンが保護したリリィがリアンヌであることを記した手紙を。

『そこにいるのだろう?ようやく辺境にいることを突き止めたぞ?』
 
そう思わせる手紙を。

ロベリー公爵も突き止められたからにはリアンヌがもう逃げないだろうことはわかっている。
夫だったのだ。リアンヌがそういう性格だと知っている。

たとえ、公爵の騎士がリリィを迎えに来たとしても、彼女がその馬車に乗らないであろうことも。
戻る気があったなら、いつでも可能だった。
それこそ実家の領地に戻れば、公爵にも生きていることはすぐに伝わっただろうから。

 
「ロベリー公爵は、ロレッタ嬢との結婚式までにリリィに会いに来ると思われます。
リリィを連れ帰り、囲うことを結婚する条件にするかもしれません。襲わせたことを不問にする代わりに。」

「表向き、ロレッタ嬢を公爵夫人の座につけて、寵愛はリリィに、か。」


もちろん、ただの生存確認だけの可能性もないことはない。だが、ここまでの執着を考えれば可能性は低いだろう。


「いい方法があるわ。リリィを結婚させればいいのよ!」

「そうか!リリィは辺境の領民として住民登録をしている。結婚して夫がいれば公爵は簡単に連れ帰れなくなるな。リリィはもう公爵の妻ではないため、公爵に権限はないからな。」 


なるほど。夫がいれば無理やり連れ帰ることなどできやしない。

  
「ですが、偽装では騙せないでしょう。本当に入籍する必要があります。相手をどうするつもりで?」


そう言ったエイダンに、両親の目が期待するように向けられた。


「…………え?」

 
俺?


 


 


「え?結婚、ですか?」

「ああ。リリィはもうリアンヌじゃない。だから、リリィとして結婚していれば公爵はどうすることもできなくなるんだ。どうだろうか。」

「どうだろうかって……相手もいないのに結婚できるはずないじゃないですか。」

「あぁ、相手は俺だ。」

「……え?」

「俺。」

「つまり、エイダン様と結婚しているフリをするってことですか?」

「フリじゃない。入籍はする。調べられるかもしれないからな。」

「そこまでご迷惑をおかけすることなんてできません。」

「いいんだよ。どうせ、誰とも結婚するつもりはなかったんだから。」 
 
「そうなのですか?だから、婚約者もいらっしゃらなかったのですね。でもそれなら尚更……」

「一緒の屋敷に暮らしてるんだから、今までと変わりなく過ごせばいい。入籍も形だけだし、リリィに好きな奴ができれば離婚すればいいだけだ。」


自分の結婚と離婚は気にするような問題じゃないとエイダン様はどこか投げやりな感じだった。
 
辺境伯夫妻の了承も得ているらしく、リリィとエイダン様の結婚は決定事項らしい。

頼らせてもらおうとは思ったけれど、どうしてこんなことに………

 
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