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しおりを挟むリリィが部屋で手紙を読んでいる頃、エイダンとユートはポマド子爵家のことについて話していた。
「今回もいたか?」
「はい。ですが半年が経ち、子爵家を見張っている連中も気が抜けているように感じました。」
ユートが初めてポマド子爵家を訪れた時から見張りがいることには気づいていた。
リアンヌが戻る可能性、あるいは手紙、あるいは呼び出し。
要するに、何か異変を感じたら連絡することになっているのだろう。おそらくはロベリー公爵に。
リアンヌが戻れば屋敷中の者が驚くから気づくし、手紙や呼び出しでリアンヌが生きていることを確認できた場合も子爵夫妻に明るい表情が戻り使用人たちも気づくだろう。そういった異変だ。
その異変が起こるかどうかこの半年、ずっと監視させているのだ。
ユートも子爵夫妻との接触に悩んだ。
オードリック辺境伯の名は出せないし、縁もなければ約束もない。
監視している者たちの目を引くことなく、使用人にも怪しまれることなく接触したい。
悩んだ挙句……夫妻の寝室へと忍び込んだのだ。
そして大声を出される前に、剣に手をかけようとする前に、『お嬢様は生きています!』と告げた。
子爵夫妻は、ユートの言葉を信じて声を出さなかった。
だからユートは子爵夫妻にだけ、リアンヌを助けたことからオードリック辺境伯領で平民リリィとなったことまでを話した。
涙を流して、『元気に生きていてくれて嬉しい』と喜んでいた。
リアンヌが、領地に戻ることはもうできないので両親には自分が死んだと思ってくれているままの方がいいと言っており、生存を知らせる手紙は書かなかったことを話した時も、いつか手紙を書いてくれるのを待つし、そのうち自分たちが会いに行って驚かせてやると言って笑っていた。
ユートは、リアンヌも前向きだと思ったが子爵夫妻も同じだ、と。さすが親子だと思った。
その3か月後にも、ユートはポマド子爵夫妻にリリィの近況を報告している。
そして今回も、毎回忍び込んでいるというのに大歓迎されるのだ。
屋敷の警備の甘さを危惧するべきなのに……
いや、厳しくされたらユートが簡単に忍び込めなくなるので、それはそれで困るのだが。
3回目の今回はリリィの手紙を泣いて喜ばれ、子爵が返事を書く間に美味しいワインをいただいてしまった。
使用人にユートのことを話せないために食事をさせることができなくて申し訳ないと言われてしまった。
善良な人たちだな、と手紙を運ぶ仕事でユートは心が温まる思いがしたのだ。
「帰ってくる時に耳にしたのですが、ロベリー公爵は元婚約者のロレッタ嬢との婚約話が進んでいるそうです。」
「元婚約者、か。どうせ、自分のお茶会帰りに攫われて亡くなったリアンヌに責任感を感じているとか言って、リアンヌの代わりに自分が子供の母になるつもりだとでも言いふらしてるんだろう。
公爵の母親とはそれで話がついているだろうからな。公爵本人はどう思っているか知らないが。」
「一度捨てられたのに、そこまでして公爵の妻になりたいものなのですかねぇ?」
「捨てられたという黒歴史をなかったことにするつもりじゃないか?どうせ自分の子供ができたらリリィの子供には見向きもしないだろうしな。」
「まぁ、親の爵位から言っても、ロレッタ嬢との子供が公爵家の跡継ぎに望まれるでしょうねぇ?」
「……そうなったら、リリィは子供を引き取りたいと言うだろうか。」
「うーん。どうでしょう。子供に会わせてもらえない暮らしをしていたのだから微妙ですかね。
跡継ぎになれなくても公爵家の令息には変わりないですから、平民よりもいい暮らしができますからね。」
「だがポマド子爵家が引き取れば……無理か。次期子爵には子供がいるしな。」
子爵はポマド子爵領を、リアンヌの子である孫に継がせたいということなど今更言えないだろう。
それに、リアンヌの生存を公表できないのだから、リリィが引き取ることなど不可能だということを忘れていた。
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