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しおりを挟むリリィは両親からの手紙を読む前に深呼吸を繰り返した。
先ほどのエイダン様の話によると、両親は半年近く前、リリィが死んだことにされた少し後には生きているということを知っていたのだ。
それを教えてくれてもよかったのに、と少し恨めしく思ったのだが、あの頃のリリィはポマド子爵領にいる両親の元へと帰れないのであれば、生きていることを知らせる意味はないと頑なに思っていたから。
だけど、会えなくても手紙で通じ合える。あるいは、お忍びでどこかで落ち合うこともできる。
そんなことすらあの頃は考えられなかった。
逆に両親は、そんな薄情な娘のそばに来るために、甥夫婦に領主の仕事を教え込んでいる最中だったというのに。
両親の愛情を胸いっぱいに感じながら読んだ手紙は、少々笑えるものだった。
* * *
リアンヌ、元気かい?手紙をありがとう。
お前が死んだことがどうしても信じられなくて墓を暴くつもりだったが、その前にリアンヌが生きているということをユートくんに教えてもらって、やっぱりなと思ったよ。
あんな急な葬式、非常識すぎたからな。疑ったのは間違いじゃなかった。
私たちはお前が生きていることを知って、とても元気な毎日だ。
ただ、問題なのは、お前が生きているということを他の誰にも悟られないようにするため、ずっと演技をしていることだな。
笑いそうになる顔を引き締め、時折、辛そうにしようと思うにも涙も出ない。
しかし、すぐにまた、リアンヌの側に住むためには何が必要かとウキウキと考えていれば、周りは頭がおかしくなったのではないかと不安そうに見てくる。その繰り返しだ。
それを誤魔化すために、甥のデイビッドに安心して領地を任せられるようになれば、爵位を渡して夫婦で旅に出るつもりだということを伝えた。もちろん、リアンヌのところに行くとは言えないからな。
だから、一日も早く仕事を覚えろとデイビットの尻を叩いているんだ。
すると、領地にいれば娘を思い出して辛いのだろうと誤解してくれるんだ。
使用人たちまで騙すのは申し訳ないが、どこからリアンヌが生きているということがバレて、ロベリー公爵の耳に入るかと想像すれば、まだ誰にも気を許すことはできない。
だから、旅に同行する者以外は目的地も秘密になるだろう。
リアンヌ、お前は大好きだったポマド子爵領に来ることはできないだろう。
ここはお前のことを知っている領民がたくさんいるからな。
だから、私たちが必ず会いに行く。数年は先になるが、待っていてくれ。
手紙はユートくんが運んでくれるらしい。郵送だと偽名でもどういう関係か疑念を持たれるし、中身を読まれれば生きていることがバレてしまう。
あまり頻繁だとユートくんも大変だし、4か月ごとということになった。
オードリック辺境伯も、知らぬフリをしてくれていると聞いている。
三男のエイダン殿の元でメイドになると手紙にも書いてあったが、助けていただいた上に面倒まで見てくれて、本当に有難いことだな。
誠心誠意、お仕えしなさい。
体に気をつけて、リリィとしての新しい人生を楽しく生きてくれればそれでいいからな。
じゃあ、また手紙を待っているよ。
* * *
父は聞きたいことや知りたいことがあるはずなのに、何も書いていなかった。
ユートさんから大まかに聞いているのだろうし、過去は振り返らなくていいと言いたいのだろう。
従兄のデイビッドに領地を任せられるようになれば、両親は本当にここに来るつもりらしい。
とても嬉しい。
それまでに、家事全般をマスターして、手料理も食べてもらえるように頑張ろう。
リリィは新たな目標ができた。
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