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しおりを挟むエイダン様の屋敷での暮らしに慣れてきた頃、エイダン様に後で執務室に来るようにと言われた。
そして、訪れた執務室にはエイダン様だけでなくユートさんも一緒だった。
「リリィさん、お久しぶりです。」
「お久しぶりです。ユートさん、お元気でしたか?」
ユートさんは、エイダン様と一緒にリアンヌを助けてくれて辺境までの道のりを一緒に過ごしてきたけれど、辺境伯領に着いてからはほとんど顔を合わせることはなかった。
「元気です。ちょっと遠方に行っていました。リリィさんにお土産です。」
渡されたのは封書だった。手紙だろう。見覚えのある字。涙が込み上げてきた。
「リリィの書いた手紙はユートに運んでもらった。郵送するよりも確実だからな。」
エイダン様に促されて書いた両親への手紙は、ユートさんがリアンヌの実家であるポマド子爵領まで届けてくれて、返事も貰ってきたということらしい。
「リリィには勝手なことをしてすまないが、実はご両親には君が生きていることを既に伝えてあった。」
「…………え?」
「ご両親は、君の葬儀と埋葬を終えた後に王都に着いた。だからどうしても信じられなくて、一目リアンヌを見たいとロベリー公爵に何度も詰め寄ったらしい。もちろん、墓を掘り起こす許可は出ることなくご両親は領地へと戻った。」
それはそうでしょうね。だって、おそらく棺の中には誰もいないから。
他人が入っている可能性はないこともないけど、あの公爵家が見知らぬ他人を公爵家の者として墓に納めるとは考えられないから、空だと思う。
「だが、ご両親は一度引き下がってから墓を暴くつもりなのではないかと、そんな様子だったらしい。見つかれば捕まることになっただろう。万が一、見つからなくて棺の中を見ることが出来たら娘が亡くなっていないことを知ることになる。しかし、それを問い詰めたり公表したりする前に、ご両親が消されることになったはずだ。」
「……両親の様子を見張らせていたってことですか?」
「ああ。すまない。俺の勝手な判断でユートに君が生きているということをご両親に伝えてもらった。」
「いえ、両親を救って下さり、ありがとうございました。」
もし実行に移していたとしても墓守や誰にも見つからず墓を暴くことは難しい。
そして、両親は捕まるか、娘を亡くして気が触れた者として療養施設に入れられたかもしれない。
そうなっていたら、領地領民にも迷惑をかけることになっていたはず。
リリィは両親の愛情の深さを見誤っていたのかもしれない。
「ご両親はリリィさんが死んだことがどうしても信じられなかったそうです。生きてると言ったら、『やっぱり』って大喜びでした。
でも生きてることは知られない方がいいというのはご両親もご承知の上のことでした。
平民のリリィとして生きていくことも伝えてあります。
リリィさんから、いつか手紙が来るのをずっと待つとおっしゃっていました。でも、待ちきれずにポマド子爵位を甥御様にお渡しになって辺境に移住するかもしれないともおっしゃっていましたよ。さすがにまだ安心して爵位を譲れないので数年先になるとのことでしたが。」
リアンヌが公爵家のジョーダンに嫁ぐことになったので、ポマド子爵の跡継ぎは父の姉の次男に渡ることになっていた。従兄はまだ20歳で2年半ほどしか父に教わっていない。
おそらく従兄は、父が娘を亡くしたことでやる気を無くし、早く引退するつもりで仕事を覚えさせようとしていると思っているはず。
父はスパルタなところがあるから……お気の毒ね。
「手紙は自分の部屋でゆっくり読むといい。」
エイダン様がそうおっしゃったので、ユートさんにお礼を言い、自分の部屋へと向かった。
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