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しおりを挟む男爵家の次男でリュードというこの令息の問いにどう返せばいいだろうか。
リリィは辺境伯家に出入りする貴族に声をかけられることを想定していなかったので戸惑ってしまった。
「あの、私はまだここに来たばかりで……」
「リュード、俺の客に勝手に構うな。カーラ、リリィを連れて行け。」
とりあえず何か答えようと話し始めた時、エイダン様がやってきて間に入ってくれた。
カーラさんはエイダン様の命令に従ってリュード様から遠ざけるように車いすを進めた。
「リリィさん、ごめんなさいね。さっさとリュード様を躱すべきでした。」
「いえ、私こそ返答に戸惑ってしまって逆にご迷惑をかけてしまいました。続けて貴族の方にお会いするとは思ってもいませんでしたので。やっぱり車いすだから目立ってしまいますよね。」
確かに車いすは目立つ。だからレイシア様はリリィに気づいた。
だが、リュード様はリリィが綺麗だからわざわざ声をかけてきたのだとカーラはわかっていた。
レイシア様が近づいてくる前にリュード様が近づいていたことをカーラは察していたのだ。
貴族令嬢であれば、この屋敷内でも何人も働いている。
彼女たちは自立のため、生活のため、あるいは結婚相手を探すためにここにいるが、貴族であるという盾があることで軽々しく誘われても好みでなかったり遊びに付き合いたくなければスパッと断る。
だが、平民女性となるとしつこく口説く男が貴族・平民に関係なくいる。
特にここは騎士・兵士が多い辺境。
遊び続ける男も多いが、所帯を持つことを願い続ける男もいる。
綺麗で、元貴族で、平民になったリリィなど、飢えた男共に間違いなく狙われ続けるだろう。
リリィを平民として自立させることも大事だが、同時に身を守ってくれる結婚相手を探すべきなのではないか。カーラはまるでリリィを自分の娘のように案じる気持ちになった。
「平民の女性は、男の人からの誘いにどう断るのでしょうか。貴族の男性の誘いは断っても問題ありませんか?」
リリィは何をどうしたらいいか、全てがわからなかった。
客人ではなくなれば、本当に平民なのだ。
今でも平民ではあるが、カーラさんが世話をしてくれたり客室にいることで実感がなかった。
「そうねぇ。相手を怒らせたり不快に思わせると面倒なことにはなるわね。貴族が相手だと特に。
だけど、辺境伯様は嫌がる女性にしつこくした領民、特に騎士・兵士には厳しい罰を与えるから、曖昧な態度ではなくきちんと断ることが大事ではないかしら。
でも、リリィさんの場合は恋人がいることにした方がいいような気がしますね。」
「恋人、ですか。架空の?恋人がいれば断りやすくなりますか?」
「ええ。相手がいる女性を口説いても実りはないと違う女性を誘う人の方が多いと思いますので。」
普通に考えて、それが大多数の意見であるとリリィもわかっている。
でも、婚約者がいるというのにリアンヌを口説き続けて婚約者に圧力をかけ、祝福されない結婚にまで持ち込んだ元夫ジョーダンという男を知っている以上、例外はあるのだと身に染みてわかっていた。
「リリィさんは、平民だと主張しても説得力がないかもしれません。所作や言葉遣い全てが貴族です。
ですので、平民の恋人と結婚するために貴族ではなくなったことにした方がいいかもしれません。そこまで恋人に惚れ込んでいると伝えれば大概の男は諦めるでしょう。」
「すごいです、カーラさん。そう説明すれば納得してくれそうな気がしてきました。」
「いえ、リリィさん。具体的に説明するのはしつこい男にだけです。誘われた時は『恋人がいるのでごめんなさい』だけでいいのですよ。」
なるほど。とてもわかりやすい。
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