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カーラさんに昼食を使用人棟で食べたいと告げると、ついでなので屋敷内の案内許可も取ってくると言われた。
客人として表側にいる間に大まかな案内を、そして使用人として働く時には貴族が普段見ることのない裏側を通ることになるからだ。
裏側は通路が広いとは言えず、車いすのリリィは邪魔になるので治るまでは行くことができない。

実は、辺境伯には会ったが、夫人や跡継ぎになるエイダン様のお兄様には会っていない。
エイダン様は紹介してくれようとしたが、リアンヌの顔を知っているにしろ知らないにしろ、平民をわざわざ紹介するという行為が変だからだ。

個人的な客人は、家族に紹介しなければならないわけではない。
必要に応じて、となる。
リリィの場合、エイダン様の客人扱いでも平民なので、辺境伯家族に紹介される身分ではないのだ。 

だが、客人が怪我人ということは伝わっているだろう。

案の定、この広い屋敷にも関わらず、車いすで目立ってしまいわざわざこちらに向かってきた人がいたのだから。カーラさんがエイダン様の長兄ハッサン様の妻レイシア様だと教えてくれた。


「あなたがエイダン様の客人ね?」

「はい。リリィと申します。辺境伯様とエイダン様のご厚意で怪我が治るまでお世話になります。」

「そんなに畏まらないで。顔をあげてちょうだい。」


正直言うとそのまま通り過ぎてくれることを願ったが、仕方なしに顔を上げるとレイシア様は一瞬思案するような表情をしたが何も言わなかった。

 
「早く怪我が良くなるといいわね。体だけでなく心も癒して辺境での暮らしに馴染んでほしいわ。」

「温かいお言葉、ありがとうございます。」
 

レイシア様はどこまで聞いているかはわからない。

おそらく、元貴族で平民となった女ということは聞いていると思った。
どこの貴族であったかは詮索しない方が賢明と言える。その方がどこの誰であっても『気づかなかった』で済ませることができるから。

レイシア様はリアンヌの顔を知っていたかもしれないが、辺境伯様の許可を得て滞在しているリリィを平民の客人として対応してくれた。


ただ、問題はレイシア様が去った後に起こった。
 


カーラさんに車いすを押してもらいながら進むと、後ろから声をかけられた。


「聞こえちゃった。エイダン様の客人なんですね。どこの家の人?ひょっとして婚約者候補?」


若い男の人が声をかけてきた。


「リュード様、いらっしゃいませ。今日のご用向きはどちらでいらっしゃいますか?」


カーラさんが対応してくれた。辺境伯家の身内なのかもしれない。


「用はもう終わった。カーラさん、彼女はどちらのご令嬢?綺麗な方だ。」

「……こちらはリリィさんとおっしゃって、エイダン様のお客人の、平民の方です。」

「え……?平民?本当に?」


リュードと呼ばれたこの人は、リリィを観察するように見ていた。
エイダン様の客だから貴族令嬢かと思ったようだけど、服装から事実だとわかったようで口調が変わった。


「じゃあ、エイダン様の婚約者候補じゃないってことだよね?俺、俺はどう?男爵家の息子だけど次男だから平民でも大歓迎。リリィちゃん、好みだなぁ。あ、それとも付き合ってる男いる?」
 

何をどう答えたらいいのかわからない。
夫も子供もいましたって答えてもいいの?いいわけないよね。
付き合っている人?いないって答えたらこの人ずっと口説いてきそうな気がするけど。

っていうか、エイダン様って結婚していなかったのね。知らなかった。 


 

 
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