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しおりを挟むエイダンの話を聞き、辺境伯は深いため息をついた。
「まず、公爵夫人の馬車が襲われることがおかしいだろう。護衛は一体何をしていたんだ。
即座の誘拐公表も悪意を感じる。彼女の排除が目的だな。前公爵夫人も関わっているだろう。
でないと誘拐は隠すのが基本だし、葬儀の偽装など他人が簡単にできることではないからな。
公爵は彼女を溺愛していたと聞くから、葬儀の偽装はともかく他に関わってはいないだろう。」
もし、妻への愛情が無くなっていたのだとしても離婚したいのであれば、簡単だっただろう。
公爵以外、誰も納得していない結婚なのは明らかだったから。
妻を誘拐してもらい、死を望むような面倒な犯罪を依頼する必要はどこにもない。
逆に、前公爵夫人が何も知らないのであれば、手際がよすぎる。
いくら嫌っていても、嫁が攫われたのだ。
通常は、公爵家の醜聞になるため、誘拐の事実を隠そうとする。
しかし、その逆が行われた。
それだけなら、これ幸いと犯人に便乗して嫁を公爵家から、社交界から追放しようと公表したとも考えられるが、葬儀が早すぎた。前もって予約していたかのようだ。
誘拐され、翌日に遺体が発見され、さらにその翌日が葬儀?あり得ない。
「前公爵夫人は怪しいが、捕まることはないだろう。そもそもリリィは生きているんだから。
彼女が逃げるための自作自演だと言われれば終わりだ。遺体は彼女に似ていたから本人だと思ったと言われれば終わりだ。言い訳はいくらでもある。
だが、公爵の動向は少し見ておいた方がいいな。彼女はもう自分に興味はないだろうと思っているようだが、念のためにな。」
「わかりました。王都にいる者に定期的に報告するよう伝えておきます。」
「それと、足が治っても彼女が平民として一人で暮らせると思っているのか?」
エイダンとしても、そこがずっと悩みどころだった。
「ここの使用人棟ではどうでしょうか。一人暮らしより安全です。」
「うちの侍女かメイドにするということか?構わないが、貴族の目につきやすいぞ?たとえ、彼女のことを元公爵夫人だと知らなくても、洗練された仕草は目につく。一族の誰かの妻に望まれるかもしれない。」
それは困る。リリィが元貴族だとわかれば、どこの誰か知りたがるだろう。
生きていることを知られると面倒なことになる。
「リリィとも相談しながら考えることにします。」
リリィが平民になることは、簡単なようで難しい問題が浮上していることを本人は知らない。
しかし、エイダンは面倒なことになるかもしれないとわかっていて連れて来たのだ。
リリィが新しい人生を問題なく送ることができるよう、手助けするのもエイダンの責任だった。
「それからもう一つ、リリィの近くに男を寄せないように通達するべきか?先ほどの様子では、忌避感は無さそうだったが。」
陵辱されたことで男を怖がっているかと聞いているのだとわかった。
「それが、リリィは長い時間眠らされていたようで、誘拐犯の顔を一度も見ていないのです。馬車の急停車で気絶し、次に目が覚めたのは医療院のベッドの上だったらしく、襲われた記憶がないせいか、男を怖がる様子はありません。旅の途中でそのことに触れると拒絶反応が出ても困りますので何も話はしていないままです。」
リリィの移動は抱きかかえることでしかできなかった。なので、有無を言わさず抱き上げた。
触れられて怖くないかと聞いて、怖いと言われてもどうしようもないから。
「記憶にないのは不幸中の幸いとでも言うべきか。意外と心が強い女性なのかもしれないな。」
自分の身に起こったことを知っても、前向きだ。
新聞記事を見ても、泣きながら笑っていた。
全て捨てた過去のこと。リリィはそう割り切っているのかもしれない。
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