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しおりを挟む妊娠中に、義父であるロベリー公爵が亡くなった。
対外的には心臓発作ということになっているが、実は愛人との閨事の最中だったらしい。
男としては幸せな瞬間の死だと言うが、女としては公表できない愚かな死に思える。
こうしてジョーダンがロベリー公爵になり、リアンヌが公爵夫人ということになった。
産み月になり、リアンヌは男の子を出産した。
しかし、腕に抱くことができたのは出産直後の1回だけ。
義母である前公爵夫人が、リアンヌのそばに置くことはできないと連れて行ってしまったからだ。
何度会わせてほしいと頼んでも、学のないリアンヌが育てると馬鹿な子になると困るからと会わせてもらえない。
夫のジョーダンに頼んでも、『母に任せていればいい』と言う。
リアンヌとの時間を子供に取られるのが嫌だから。ジョーダンにとってはそれが重要なのだ。
公爵家では乳母が育てるのが当たり前。そして祖母が管理するのが当たり前。
つまり、義母もジョーダンと引き離された時期があったのだろう。
同じ苦痛をリアンヌに与えたのだ。
子供に会う時間がほしければ、公爵家の嫁として相応しくなれるよう努力しろと教育を受け続ける日々。
再び始まった使用人による嫌がらせの日々。
リアンヌの話を聞こうともせず、ただただ愛でるために愛を囁く夫ジョーダン。
お茶会に招かれたのは、そんな疲弊した日々から逃げたくなっていた頃だった。
お茶会の主催者は、ジョーダンの元婚約者であるロレッタ嬢。
彼女はまだ未婚のままで、両親とは違いジョーダンを諦めていないのは明らかだった。
お茶会に呼ばれていたのは、もちろんロレッタ嬢と仲の良い夫人、令嬢たち。
このお茶会に出席するように言ったのは義母で、義母もロレッタ嬢をまだ望んでいるのだろうとわかった。
義母が許可を出しているのだ。
リアンヌは公爵夫人であるにも関わらず、嘲笑、罵倒されるようなお茶会を終えた帰宅途中に馬車が急停車した。
その時にリアンヌは頭をぶつけて気絶したのだろう。
その後、医療院で目が覚めるまでの記憶は全くない。
しかし、リアンヌは何人かに攫われ、眠らされ、陵辱され、足を折られ、森へ捨てられた。
幸いなのは、眠らされていたことで相手の顔も見ていなければ何人に穢されたのかも知らず、足を折られた痛みにさえ気づかなかったこと。
リアンヌにしてみれば、気絶して目が覚めれば足が折れていただけなのだ。
眠っていた間に、それまでの自分を全て失った。……死んだらしいので。そこでどうしても笑える。
そもそも、葬儀が早すぎる。
遺体の損傷が激しいとか、傷跡が痛々しいとか言って、棺の中は参列者に見えなくなっていたはず。
あのジョーダンが別人の遺体で納得した?するわけがないのでやはり見ていないのかもしれない。
だとすれば、別人の遺体をリアンヌだと認めたのは義母になる。
あるいは、義母が遺体が別人だとわかった上で、『誘拐された嫁は陵辱されて殺されているに違いない。万が一生きていたとしても戻って来て同じ暮らしはできない』とか言って公爵家の名誉のためにリアンヌが死んだことにした可能性は高い。
新聞記事も義母の仕業だろう。生きていても戻ってくるなということだ。
そして子爵家の両親は、確実に葬儀に間に合っていない。
突然、娘が死んだと言われても信じられないだろうがどうすることもできず受け入れたはず。
いつか、両親には生きていることだけ伝えたい。
すぐには会えなくても、いつか会えると信じて。
ジョーダンは遺体が別人だとわかっていた可能性はあるが、犯行には関わっていないと思う。
私を襲う指示をしたのは、義母かロレッタ嬢が有力。
あるいは、ジョーダンの遊び相手の可能性もある。
あるいは、ジョーダンを狙う貴族家の可能性もある。
いずれにせよ、社交界で認められるような秀でた何かを持たないリアンヌを邪魔に思っていた者は多い。
犯人が捕まる可能性は低いだろう。
でも、辺境で新しい人生を歩む私には、もう関係ない。
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