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しおりを挟むリアンヌはここで生きているのに葬儀が行われた。
遺体がリアンヌに似ていて死んだと思われたか、別人だとわかっていて死んだことにされたのか。
どちらにしても、こんなに早く葬儀を終えるなど、夫か義母が誘拐に関わっていた可能性もある。
要するに、万が一生きていても戻ってくるなと言われているのだと解釈することにした。
「大丈夫ですか?」
リアンヌに声をかけてきたのはここの医師だった。
医師は、新聞を手に涙を流しながら笑っているリアンヌを心配しているようだった。
だが、すぐにふと気づいた。わざわざこの新聞をここに置いていた理由を。
名前を言わなかったリアンヌはいかにも訳ありに見えただろう。
そしておそらくは平民に見えない。
名乗りはしなかったが会話はした。話し方も平民とは違う。
あるいはリアンヌの顔を知っていた可能性もある。
「先生がこの新聞を置かれたのでしょうか?」
「いや、私では……あなたを救助した旅の騎士の方々が。」
そう答えた医師の後ろから男性が2人、顔を出した。
「あなたはその記事を読んでも戻りたいだろうか。」
そう聞いた男は、リアンヌが公爵夫人であると確信しているようだった。
「私がここにいることを、どこかに知らせましたか?」
「いや、まだだ。あなたが戻るのであれば迎えに来てもらうか、あるいは我々が送り届けよう。
だがもしも、このまま別人になりたいのであれば、協力する。」
思いがけない提案に驚いた。
「別人………そうですね。私は死んだそうです。戻っても居場所はないでしょう。元々、居場所なんてないようなものでしたし。できれば、別人として新しい人生を歩んでみたいです。」
「わかった。我々は東の辺境に帰るところだ。良ければそこで手続きをしよう。
先生、馬車で移動するなら明日出て行っても問題ないだろうか?」
「そうですね。意識ははっきりしていて問題ないようですし、きっちり食事をとれるようでしたら。」
医師の言葉にリアンヌは頷いた。
早く別人になりたい。今のリアンヌはその気持ちでいっぱいになっていた。
「先生、彼女は俺の侍女のリリィ。馬から落ちて足を骨折して数日間入院していた。そうカルテに書いてほしい。」
「………わかりました。」
医師がカルテを書き換えるのを確認するのだろう。もう一人の男が医師と共に部屋から去った。
「ありがとうございます。」
「いや、助けた者の責任だ。明日の朝に出発する。食事と睡眠をちゃんととるように。」
「わかりました。」
男も部屋から出て行った。
彼は誰だろう。平民の騎士ではない。
リアンヌの顔を知っているし、話し方が貴族だった。
しかも、人に指示することに慣れているようなので、騎士としても上に立つ側なのかもしれない。
辺境には辺境伯の親族にあたる子爵家男爵家が多くある。
普通の子爵家男爵家と違い、一族の分家であるため社交のために王都にやってくることはほとんどない。
しかし、たまに王都の騎士団に入る者がいたり、騎士の交換交流があると聞いたこともある。
王都にいる間にリアンヌを見知ったのだろう。
もう一人の男も、同僚というよりかは腹心の部下のような立ち位置に思えた。
どちらも、真面目な騎士だと感じた。
少し話しただけで、信用してしまっている自分に驚くが、王都から離れた辺境に行くことは過去との決別にも思え、名前も身分も失った今の自分が頼れる唯一の人だと縋りつく思いだった。
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