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しおりを挟むリアンヌは目が覚めて、ふとベッドの横にある椅子の上に新聞があることに気づいた。
何気なく目に入ったその見出しに驚いた。
『リアンヌ・ロベリー公爵夫人、誘拐され自決を選んだ誇り高き死』
詳細はこう書かれていた。
あるお茶会に出席したリアンヌ夫人の馬車が帰宅途中に何者かに攫われた。
身代金目的の誘拐ではないかと思われた。
方々手を尽くして探したが見つからず、犯人たちからの要求を待っていたが翌日になっても何もない。
身代金目的ではなく夫人を穢すことが目的ではないか。
その線で捜索が行われていたが、ある空き家の一室で自ら首を掻っ切って自決したと思われる夫人の遺体が発見されたという。
身は穢されていなかったが、ドレスには引き裂かれた跡があり、陵辱される前に犯人の武器を奪い自らの首を引き裂いたのではないかと判断された。
公爵夫人として誇り高き死を選んだことを葬儀では称賛されていた。
そのように記事は締めくくられており、日付は昨日になっていた。
リアンヌは笑いが込み上げてきた。
『私、死んだの?じゃあ、今ここにいる私は誰?』
紛れもなくリアンヌ本人だ。
つまり、リアンヌではない女性の遺体をリアンヌだと思い込んで葬儀をしたか、そもそも棺に遺体は入っていなかったかのどちらかだろう。
遺体はロベリー公爵である夫ジョーダンが確認したのだろうか。それとも義母だろうか。
いずれにせよ、リアンヌの戻るところはもうないということだ。
『生きていますよ?』などとひょっこり公爵家に戻ったとしても、偽りの葬儀を行ったなどと知られたら外聞が悪い。リアンヌは公爵夫人を騙る偽者として捕まるか、売られるか、今度こそ殺されるか………
公爵夫人として生きることに疲れ果てていたリアンヌは、戻りたいとも思わない。どこかホッとしている自分がいる。
心残りが全くないとは言えない。息子がいるのだから。
だけど、それ以上に心が限界を迎えており、攫われたことでもう頑張れなくなった。
リアンヌは新聞記事を目にする前日に意識が戻ったばかりだった。
リアンヌは馬車が襲われた時、頭を打って気絶したはず。そこから意識がない。
そして気づけば、この医療院のベッドの上にいた。
医師が言うには、陵辱されて森に捨てられたのだろうということだった。
そのまま獣に食べられて死ぬことを期待されていたのではないか、と。
しかし、たまたま男たちの会話を耳にした者が馬車の跡を辿りリアンヌを見つけた。
足の骨折以外、大きな外傷は見られなかったがリアンヌは2日以上、眠り続けた。
眠り薬が強力過ぎて、効き過ぎていたとのだろうということだった。
足の骨折は、万が一生きて目が覚めても動けないことを望んでいたと思われた。
医師に名前を聞かれたが、リアンヌは答えなかった。
目覚めたばかりで状況がよくわかっていなかったからだ。
公爵夫人である自分が攫われ、凌辱された。そして死を望まれていたということだ。
心当たりは何人もいる。
夫に、リアンヌがここにいると伝えてもらっても、その後はどうなるのか。
リアンヌが攫われてから数日経っており、たとえ陵辱されていなかったとしても疑われ続ける。
実際に陵辱された身としては、もう社交界に顔を出すことなどできない。
離縁され、実家に戻り、修道院に行くことになるだろう。
それならば、王都に戻ることなく書面で離婚手続きを済まし、ひっそりと修道院に向かう方がいい。
先に実家にここの場所を知らせて来てもらった方が骨折が治るまで面倒を見てもらえるかもしれない。
考えが纏まったリアンヌは、明日、医師に名前を告げて手紙を書かせてもらおうと思っていた。
だが、翌朝目が覚めて目に入った新聞記事で自分が死んでいたのだ。
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