1 / 32
1.
しおりを挟むリアンヌは目が覚めて、ふとベッドの横にある椅子の上に新聞があることに気づいた。
何気なく目に入ったその見出しに驚いた。
『リアンヌ・ロベリー公爵夫人、誘拐され自決を選んだ誇り高き死』
詳細はこう書かれていた。
あるお茶会に出席したリアンヌ夫人の馬車が帰宅途中に何者かに攫われた。
身代金目的の誘拐ではないかと思われた。
方々手を尽くして探したが見つからず、犯人たちからの要求を待っていたが翌日になっても何もない。
身代金目的ではなく夫人を穢すことが目的ではないか。
その線で捜索が行われていたが、ある空き家の一室で自ら首を掻っ切って自決したと思われる夫人の遺体が発見されたという。
身は穢されていなかったが、ドレスには引き裂かれた跡があり、陵辱される前に犯人の武器を奪い自らの首を引き裂いたのではないかと判断された。
公爵夫人として誇り高き死を選んだことを葬儀では称賛されていた。
そのように記事は締めくくられており、日付は昨日になっていた。
リアンヌは笑いが込み上げてきた。
『私、死んだの?じゃあ、今ここにいる私は誰?』
紛れもなくリアンヌ本人だ。
つまり、リアンヌではない女性の遺体をリアンヌだと思い込んで葬儀をしたか、そもそも棺に遺体は入っていなかったかのどちらかだろう。
遺体はロベリー公爵である夫ジョーダンが確認したのだろうか。それとも義母だろうか。
いずれにせよ、リアンヌの戻るところはもうないということだ。
『生きていますよ?』などとひょっこり公爵家に戻ったとしても、偽りの葬儀を行ったなどと知られたら外聞が悪い。リアンヌは公爵夫人を騙る偽者として捕まるか、売られるか、今度こそ殺されるか………
公爵夫人として生きることに疲れ果てていたリアンヌは、戻りたいとも思わない。どこかホッとしている自分がいる。
心残りが全くないとは言えない。息子がいるのだから。
だけど、それ以上に心が限界を迎えており、攫われたことでもう頑張れなくなった。
リアンヌは新聞記事を目にする前日に意識が戻ったばかりだった。
リアンヌは馬車が襲われた時、頭を打って気絶したはず。そこから意識がない。
そして気づけば、この医療院のベッドの上にいた。
医師が言うには、陵辱されて森に捨てられたのだろうということだった。
そのまま獣に食べられて死ぬことを期待されていたのではないか、と。
しかし、たまたま男たちの会話を耳にした者が馬車の跡を辿りリアンヌを見つけた。
足の骨折以外、大きな外傷は見られなかったがリアンヌは2日以上、眠り続けた。
眠り薬が強力過ぎて、効き過ぎていたとのだろうということだった。
足の骨折は、万が一生きて目が覚めても動けないことを望んでいたと思われた。
医師に名前を聞かれたが、リアンヌは答えなかった。
目覚めたばかりで状況がよくわかっていなかったからだ。
公爵夫人である自分が攫われ、凌辱された。そして死を望まれていたということだ。
心当たりは何人もいる。
夫に、リアンヌがここにいると伝えてもらっても、その後はどうなるのか。
リアンヌが攫われてから数日経っており、たとえ陵辱されていなかったとしても疑われ続ける。
実際に陵辱された身としては、もう社交界に顔を出すことなどできない。
離縁され、実家に戻り、修道院に行くことになるだろう。
それならば、王都に戻ることなく書面で離婚手続きを済まし、ひっそりと修道院に向かう方がいい。
先に実家にここの場所を知らせて来てもらった方が骨折が治るまで面倒を見てもらえるかもしれない。
考えが纏まったリアンヌは、明日、医師に名前を告げて手紙を書かせてもらおうと思っていた。
だが、翌朝目が覚めて目に入った新聞記事で自分が死んでいたのだ。
2,495
お気に入りに追加
3,627
あなたにおすすめの小説

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。


彼女は彼の運命の人
豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」
「なにをでしょう?」
「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」
「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」
「デホタは優しいな」
「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」
「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる