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報告を終えた騎士たちが帰った後、伯爵がクラリスに言った。

「お前には弟か妹がいたはずだったんだ。
 せっかく授かっても育たない。
 3度目の流産の後、お前の母が言った。『おかしい』と。
 口にするものを不安に感じ始めた頃、父が死んだ。疑いが深まった。
 それから領地に行ったまま、彼女はここには戻ってこない。
 お前が学園に入学するまでは家族でほとんどの間、領地で過ごしたが元気だったろ?
 でも、もう妊娠することはなかった。毒の影響だったんだろうな。」

「お母様がそんな目にあっていたなんて…」

泣きそうに笑いながら伯爵が言った。
 
「姉は死んだ。ジェシーもいない。ようやく本当に危機が去ったな…
 お前の結婚式の打ち合わせもある。これで安心して呼び戻せるよ。」


クラリスの母は病弱でもないのに長年領地から出なかった。
父だけが、領地と王都を行き来していた。
子供の頃は、そういうものだと思っていた。
学園に入り、長期休暇以外は王都で過ごし、社交をしない母を疑問に思った。
父と共に挨拶に回り、相手は大体が夫婦だ。
父と母は仲が良い。だから何か理由があるとは思っていた。
それがこんな悲しい理由だっただなんて… 

「でもおそらくお前が結婚したら、また領地に籠るだろうな。
 王都よりも領地の方が自然があふれていて好きだからな。」

10年以上、王都を離れている母はそうだろうなぁとクラリスも思った。


ルークが突然、びっくりすることを言い出した。

「是非、領地に行ってみたいです。今を逃すと20年以上先になるだろうから。」

確かにそうだ。馬車で片道3日かかる。
行き道2泊、領地2泊、帰り道2泊の強行旅行で皆で母を迎えに行くことになった。


それぞれが仕事の都合をつけ、10日後に出発した。
馬車に乗り、出発してからルークが嬉しそうに言った。

「王太子殿下に休暇を申請した時に言われました。
 毎年、順番に2週間ほどのまとまった休暇は取れるそうです。
 殿下にも避暑地でのお休みがありますからね。
 20年先じゃなくて毎年行けるようです。」

「そうか。それは良かった。幸いうちの領地はまだ王都に近いからな。
 遠いところだと行って帰るだけで休暇がなくなるな。
 昔は馬でよく王都と領地を往復したよ。
 今は土砂で塞がってしまったが、近道があったんだ。」

「へ~。道を整備したら馬車でも日数を短縮できるかもしれませんね。
 うちの実家の侯爵領も今日宿泊のテデンの町までは一緒ですね。
 そこから南と東。隣ではないですが、遠くもないですね。」

「テデンの町は楽しいわ。いろんな領地の名産も置いてあるもの。
 普段、食べれないものもあっていつも楽しみにしてるの。」

「ああ、確かに。夕方前には着くから、夕食まで散歩しようか。
 伯爵、クラリスとデートしていいですか?」

「いいよ。楽しんでおいで。」

クラリスは嬉しかった。ルークはクラリスとの時間を大切にしてくれる。
馬車の中でも話上手で、結構物知りだとわかった。

昼食休憩を挟み、テデンの町へ着いた。
部屋を確認した後、ルークと散歩に出ることにした。

「お父様、行ってきますね。」

「気をつけてな。はぐれないように。」

「大丈夫ですよ。こうやって手を繋いでいます。」

そう言ってルークはクラリスの手を取った。
父は満足そうに頷いて手を振って部屋に戻った。


「さあ、行こうか。何を見る?」

「う~ん。ブラブラ歩いて気になったものを見たいわ。」

そう言って、歩き出した時は繋いでいる手が恥ずかしかった。
でも少し経つ頃には繋いでいることが自然になった。

貴族が普段はしない歩き食べもここではよく見られる。
いつも食べるものや気になったもの、帰りに買って帰るお土産の下見など、今までは父や侍女たちとしていたことがルークに代わっただけなのに、クラリスは何倍も楽しく感じた。


こうして領地までの旅を楽しみながら、伯爵領に着いた。








 
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