上 下
65 / 72

65.

しおりを挟む
 
 
学園にいる令嬢たちが自分の誘いに乗らないのはなぜかということをルースはわかっていないらしく、段々と機嫌の悪くなる日が増えていったらしい。

ルースは婚約者であるアミーナを侯爵家に呼び出し、体の関係を迫ったという。
 
『最後までしないから』『気持ちよくするだけだから』

アミーナが『イヤっ』と叫んだ声がアミーナの侍女に届き、少し開けていた扉を開いて侍女が部屋の中へと入るとルースがアミーナの体をまさぐっているところだった。


「おやめくださいっ!」


侍女の叫び声に、ルースは一度『出て行け』と侍女に告げたらしいが、他にも使用人が集まり始めたことからアミーナの上から体を退けた。


さすがにルースの所業を聞いたアミーナの父ファーブス侯爵は、コリタック侯爵にルースへの苦言を呈し、それに加えて性病検査を定期的に受けるべきではないかとルースの不品行さを皮肉った。

未婚の、しかもまだ15歳のアミーナに関係を迫ることは、婚約者とはいえ許されていない。
最後までするつもりはなかったなどという言い訳は通らない。

だが、ファーブス侯爵はこの程度では婚約解消を言い出さなかった。まだ弱いということだ。
しかし、次はないと釘はさしたようだった。


この一件で、アミーナはルースに近づかれると吐き気を感じるようになり、体調不良を頻繁に起こすようになった。 


 
そしてとうとう、パーティーでルースに腰を引き寄せられた不快感から気絶してしまったというアミーナを見舞うため、アナレージュは実家であるファーブス家を訪れた。 


「アミーナ、大丈夫?」

「叔母様……お父様は婚約解消を認めてくれないの。もう耐えられない。」
 

アミーナはボロボロと涙を流していた。

コリタック侯爵家でルースに襲われそうになった時、初めてキスをされたらしい。

その時が初めてだったというのは意外だとアナレージュは思ったが、女を知る前はそんな度胸がなかったのだろうし、女を知ってからは発散先があったからなのだろう。

だが、学園に通いだしてからは、以前ほど頻繁に女性を買いに行けなくなったのだ。

それでアミーナに手を出したくなったのだろう。

しかし、アミーナとのことが不発に終わったことが原因で、ルースが侍女に手を出し始めたという情報を手にした。
 

「アミーナ、もう少しの我慢よ。ルースは身近な侍女に手を出し始めたわ。
学園を卒業したばかりの子爵令嬢と、その前の年に侍女になった男爵令嬢、それと下働きの平民よ。
貴族令嬢はルースよりも3、4歳年上だけど、彼女たちは妊娠を狙う。間違いないわ。」

「……あと少し?」

「ええ。お兄様にもこの後、告げに行くわ。妊娠してなくても貴族令嬢に手を出している事実は大きい。
妊娠すれば、跡継ぎの問題も起こるから他人事ではないわ。
先に愛人が子供を産むなんてファーブス侯爵家が蔑ろにされていると見做される行為なんだから。」
 

アミーナの表情が明るくなった。

唇が荒れている。

ルースのキスを思い出しては、何度も擦っているのだろう。


「大丈夫。必ずお兄様を説得するから。もうレイフォードのことも話してしまうわ。
だから必ず婚約は解消できる。お兄様は時期を見るかもしれないけれど、そんなに先にはならないわ。」


アナレージュはアミーナに希望を持たせるため、レイフォードのことも兄に話すことに決めた。

向こうに払う慰謝料が惜しいのであればレーゲン公爵家が出しても構わない。

そのくらいの気持ちだった。 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船
恋愛
婚約を交わして5年。 伯爵令嬢のミリアベル・フィオネスタは優しい婚約者を好きになり、優しい婚約者である侯爵家の嫡男ベスタ・アランドワと良い関係を築いていた。 二人は貴族学院を卒業したら結婚が決まっていたが、貴族学院に通い始めて2年目。 学院に「奇跡の乙女」と呼ばれる女性が入学した。 とても希少な治癒魔法の力を持った子爵令嬢である奇跡の乙女、ティアラ・フローラモはとても可愛らしい顔立ちで学院の男子生徒の好意を一身に受けている。 奇跡の乙女が入学してから、婚約者であるベスタとのお茶の時間も、デートの約束も、学院での二人きりで過ごす時間も無くなって来たある日、自分の婚約者と奇跡の乙女が肩を寄せ合い、校舎裏へと姿を消したのを見てしまったミリアベルは行儀が悪い、と分かってはいても二人の姿を追ってしまったのだった。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

処理中です...