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しおりを挟むレイフォードとの相性が悪いことを理由に、コベール・グランが教育係になることをリゼルは断ったが、予想通り、彼は納得しなかった。
「私のいったいどこが悪いというのですかっ!私の指導が不満だと思われるそのことこそ、この子が高位貴族としての振る舞いができていないという証左と言えるはずです。違いますか?これだから伯爵家は。」
伯爵家をバカにしたような言い方をするこの男は、自分が侯爵家出身であるということだけが今の自分を支えているのだろう。
そして、下位貴族や平民を必要以上に下に見る教育を施していることがわかる。
しかし、そんな教育は今では古い。古すぎる。
40年以上前、コベールが子供の時代はまだその流れはあったのかもしれない。
でも20年前のエドモンドの時代にはすでに声高に下の者を見下す風潮は愚かな行為と言われていた。
そして今では、そんな教育などあり得ない。
コベール・グランは時代の変化についていけない男だということがわかった。
「レイ、先生にどんなことを注意されたの?」
レイフォードはわずか1時間ほどの間にあったことを細かに教えてくれた。
まず、お茶を用意してくれた侍女にお礼を言うと怒られた。
『使用人にお礼を言うなんてとんでもない。彼らはそれが仕事。給金を貰って働く使用人だから』
侍女に紙とペンを準備するように言うと怒られた。
『目線で、顎で、指先で使用人を扱えるようにならなければならない。間違ったら鞭打ちするべき』
鞭打ちの意味がわからなかったので聞くと鞄から鞭を出して見せてくれた。
『これは言うことを聞かない生徒を打つために私が使うもの。私の言うことを聞かなければ打たれる』
「えっ!先生は鞭をお使いになるの?信じられない。虐待だわ。」
リゼルは我慢できず、思わずコベールを非難した。
「虐待などと失敬なっ!間違ったことは体罰で覚えさせるのが一番なのです。」
「……エドモンド様にも体罰を?」
「とんでもない。彼は優秀で鞭の出番などありませんでした。」
「彼が公爵家の子供だったからではないのですか?」
「っ……関係ない。」
言葉に詰まったのが事実である証拠だろう。
コベールは、おそらく伯爵家の子供にだけ体罰を行ってきたのだ。
「わずか1日でしたがご指導をありがとうございました。正式にお断りさせていただきます。」
エヴァンは怒りを滲ませてコベールに言った。伯爵が正式に断ったのだ。反論はさせない。
「父様、どうしてお礼を言うの?先生も給金を貰って働く使用人と同じ立場だからお礼は不要でしょ?
先生がそう言ったのだから、僕は先生にはお礼は言わないよ。」
「そうだな。この先生には必要なかった。」
「失礼なっ!私は侯爵家の者だとわかって言っているのか?」
「あなた自身は『子爵』ですよね?前侯爵である兄から教育者として貴族家で働ける身分をもらった。
その『子爵』の身分を、現侯爵であるあなたの甥は返してほしいようですよ。」
『子爵』の身分を失えば、コベールは年齢的にももう貴族家での指導は難しいだろう。
『子爵』でありながらグラン侯爵家の名を使うコベールに、現侯爵はうんざりしており、これを機に『子爵』を取り上げると言っていた。
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