上 下
51 / 72

51.

しおりを挟む
 
 
エドモンドが雇ったレイフォードの教育係がやってきた。

50歳を過ぎた男に見える。エドモンドが教育を受けた20年ほど前は30歳くらいだったのだろう。

正直言って、不安でしかなかった。 


「レーゲン公爵家エドモンド様から、依頼されて参りましたコベール・グランと申します。
聞くところによると、私が受け持つお子様は将来レーゲン公爵家の養子になられる可能性があるとか。
私はエドモンド様を立派に教育したと自負しております。どうぞ、ご安心ください。」


……いや、不安でしかない。
 

「では早速、始めさせていただきたく思います。」


挨拶もそこそこにコベール・グランはレイフォードと部屋に向かった。
熱意は感じられても、どうしても懸念してしまう。
 

コベール・グランについて、リゼルとエヴァンは調査をした。
彼は先代グラン侯爵の弟で独身。
 
確かに多くの教育実績はあったものの、そのほとんどが伯爵家だった。
公爵家・侯爵家ではエドモンドの他、数人だけなのだ。

事実上、クビになったと思われる数は少なくない。

伯爵家での実績は、おそらく兄であった前侯爵の手前、断れなかった、あるいは、押しつけられたのであろうと思われた。 

前侯爵の息子である現グラン侯爵は、叔父コベールがグラン家の名前を利用して仕事を得ることを嫌がり、近々その権利を無くすつもりで動いていた。

そこに打診したのがエドモンドだった。公爵家からの依頼だが、行先は伯爵家。
それならば、とグラン侯爵はエヴァンに会うことにした。

エヴァンはグラン侯爵から、叔父コベールと教育方針が合わなければすぐさま解雇してほしいと言われた。 

むしろ、こちらが解雇することを望んでおり、バーナー伯爵家からの苦情によって叔父コベールの教育係としての仕事に引導を渡したいとのことだった。

詳しいことは聞けなかったが、いったいどんな教育を施すつもりなのか、非常に不安だった。


しかし、それはわずか1日目にして発覚した。




「いやぁ、利発なお子様ですが少々振る舞いが下位貴族のようで困りますねぇ。ですが、私が責任をもって厳しく教育致しますのでご安心ください。」


振る舞いが下位貴族???いったいレイフォードは何をしたのだろう。

珍しく少し不機嫌そうな顔をしているレイフォードに聞いてみた。


「レイ?先生のご指導、どうだった?」

「僕、先生が指示するような貴族になんてなりたくない。僕はお祖父様や父様みたいになりたい。」


あら。エヴァンは嬉しいでしょうね。お義父様も。


「先生がおっしゃることに納得がいかないのね。なら無理に教わる必要はないわ。
先生、どうやら息子との相性が悪いようですので今後の教育はお断りいたしますわ。」

「なっ!勝手に断るとはエドモンド様の顔に泥を塗るようなことだとお分かりか?
それに、たかが伯爵家が我がグラン侯爵家も愚弄する行為なのだと理解が及ばないらしい。」

「何をおっしゃっているのかわかりませんわ。
失礼ですが、先生は雇用される側。あなたを雇うも雇わないも権限はこちらにあります。」

「私を雇ったのはエドモンド様なのだぞ?」

「確かにそうですが、お断りする権限は伯爵家にあるのですよ?」


当然のことだと思うけど。エドモンドは伯爵家にはいないのだから。
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...