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しおりを挟む三度目の話し合いのため、エドモンドがバーナー伯爵家を訪れた。
リゼルとエヴァンの妥協案をレーゲン公爵家は受け入れるのだろうか。
受け入れないのであれば、レイフォードがエドモンドの子供であるとリゼルが認めることは二度とない。
リゼルとしては、本当にどちらでもよかった。
公爵という地位はリゼルからしてみれば、重い。
だけど、レイフォードには権利がある。
エドモンドに他の子供がいれば、こんな話し合いは必要なかった。
前妻の子供が跡継ぎになるなんて、後妻の子供と諍いになりやすいことだから。
なのでリゼルは、ずっとレイフォードのことをエドモンドに報告しなかった。
エドモンドがレイフォードのことを知っていても後妻との子供を優先するだろう。そう思って。
だけど、子供がレイフォードしかいないのであれば、要検討事項となってしまった。
これも運命。こちらはそう受け入れた。
レーゲン公爵家は?
レイフォードが欲しいのであれば、リゼルの案を受け入れるしかない。
「先日の妥協案、概ね受け入れる。」
エドモンドはそう言った。まぁ、そうなるだろうとは思っていた。
「概ね、とは?」
「少し変更点がある。まず、15歳以降はここと公爵邸を行き来してもらいたい。学んでほしいこともあるし、公爵家の者だという自覚も必要になる。完全に公爵家で暮らせというわけじゃない。
それと、婚約者については伯爵家より上で考えてほしい。下位貴族令嬢が公爵家に嫁ぐとなると、よほど優れた何かを持っていない限り辛い思いをする。
あと、15歳になるまでの間も年1,2回は公爵家に顔を出してほしい。」
どれも想定した範囲ではあった。
わざと幅広い案を出したのも、公爵家が詰めるであろうことを見越してのことだから。
ただ、年に1,2回という面会の申し出が、公爵がいかに孫に興味がないかを知らしめていた。
実の孫であろうと、養子であろうと、公爵家が繋がっていくのであればそれでいいのだろう。
あるいは、子供とどう接すればいいかわからないという理由からかもしれないけれど……
「わかったわ。」
「あと、教育係と家庭教師はこちらから派遣する。
教育係については私も子供の頃に教わった者がまだ現役でいるということだから頼んだ。」
「えっ……エドモンド様の元教育係ですか?」
「ああ。真面目で熱心な男だ。レイフォードを高位貴族として恥ずかしくない男にしてくれるだろう。」
リゼルはエヴァンと顔を見合わせた。
学力については家庭教師の指導と本人の理解力によるものになるが、教育についてはクセが出る。
エドモンドの少しズレた常識感はひょっとしてその教育係のせいなのではないだろうか。
その教育係にレイフォードも教わる?眩暈がしそうだった。
だが、本当にその教育係のせいだと決まったわけではない。
そう思い、エドモンドの教育係をひとまず受け入れることにした。
問題があれば、エドモンドの許可を取らずに解雇しよう。そう思いながら。
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