好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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エドモンドが私室に戻ろうとしたところ、妻のアナレージュに出会った。 

こんな昼間に顔を合わせることはあまりない。

しかし、ちょうどよい機会なので、レイフォードのことを話そうと思った。
養子ということにして、実子ということはまだ伝えないが。


「アナレージュ、少し話があるんだが今いいか?」

「ええ。私もあなたに話があったの。」


珍しい。
エドモンドに了承を得ることもなく、与えられた予算以上の買い物も平気でする女だ。
いったい、どんな話があるというのか。少し面倒事な気もする。

エドモンドの部屋に入り、2人きりになった。


「それで?話とはなんだ?」

「あなたが先でいいわ。」


そうか?まぁ、先に話してしまおう。


「実は、養子をとることにした。だが、ここで暮らすのはまだ先になる。」

「え……?養子?ちょっと待って。なによ、いきなり。」

「すまない。子供ができない原因は私にあった。先日、検査をしたんだ。私に生殖能力がなかった。」

「うそ……そんな、まさか。」

「君が離婚したいのであれば受け入れる。どうしたい?」

「どうって……い、いきなり言われても。本当に間違いないの?」

「ああ、間違いない。3回とも同じ結果が出たからな。
養子に考えている子供は今7歳だ。15歳までは親元で暮らす。学園生の間は、ここと親元を行ったり来たりになるかもしれない。まだそこは話し合いを詰めていないが。
君が母親として接する機会はほとんどないと思ってくれていい。それと……」

「ちょっと待って!」
 

アナレージュは顔色が悪かった。こんなことで動揺するような女だったか?
勝手に養子の話を進めたことにもっと怒るか、エドモンドに生殖能力がないことを『やはりお前のせいだった』と嘲る笑みでも浮かべるかと思っていたが。


「わかったわ。その子は今すぐには来ないのよね?私は好きなようにしていいってことよね?少し考えさせて。」

「ああ。君の話は?」

「私の話は……あなたに話すことじゃなかったわ。勘違い。」


そう言ってアナレージュは部屋を出て行った。

ショックを受けたか?様子がおかしかったが。

自分のせいじゃないなら気にしない女だと思っていたが、あの反応だと子供を産みたかったのだろうか。
そうであれば、アナレージュはまだ子供が産める歳だから離婚を選ぶかもしれない。
 
そうなったらそうなったで構わない。

おそらく、エドモンドが種無しだと社交界には広まるだろうが。
 
むしろ、レイフォードの存在が知られることで、アストリー侯爵家が薬を盛ったのだろうという間違った憶測も広まることだろう。
種無しだと思われるよりも、子爵家の女のせいだと思われるよりも、あの薬物の被害者だと思われる方がまだマシである。

 
それに、レイフォードがいずれレーゲン公爵家の籍に入るということは徐々に広めていった方がいいのだから。



 
 
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