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エドモンドは父、レーゲン公爵のもとを訪れた。


「父上、今お時間よろしいですか?」

「何だ?子供は引き取れることになったか?」

「……いえ。」

「だろうな。簡単に渡すのであれば、とっくにうちと交渉していたはずだからな。完全拒否か?」

「いえ、向こうの妥協案は聞いてきました。18歳まで伯爵家で暮らすことと、婚約者を本人か伯爵家が選ぶことを認めるのであれば、15歳になれば公爵家の籍に入れてもいいそうです。」

「お前はどう思う?」

「私は……公爵家の籍に入れる気があるのであれば、今すぐにでも引き取るべきだと思っていました。
ですが、わからなくなりました。あの子は、レイフォードは今ここに来たら寂しい思いをするでしょう。
両親や弟妹と引き離され、子供との接し方も分からない我々と、淡々と仕事をこなす使用人がいるだけのここは今の環境と随分違うことになります。我々を恨むかもしれない。伯爵家に逃げ帰るかもしれない。そう思うと……」


要するに、エドモンドは自信がないのだ。レイフォードを今の伯爵家よりも幸せにする自信が。
弟妹と楽しそうに過ごしていたレイフォードの笑顔が忘れられない。
ここで同じような笑顔が見られることは絶対に、ない。

子供にとって実父が誰だろうと、関係ない。義父を慕っている。その者が父なのだ。
血筋がどうのと言うのは、大人の身勝手だろう。先祖に申し訳ないというエゴであり見栄だ。


「向こうの妥協案をのむのか?それとも親戚から養子を選ぶか?」

「……レイフォードに継いでもらいたい。妥協案をのみたいと思います。」

「そうか。まぁ、それがいいだろうな。アナレージュが7歳の子の母になれるとも思えん。
それにお前の実子だと知ると怒り出しそうだから籍に入れるまでは遠縁の子を引き取る予定だと言っておけ。
大筋では伯爵家の案を認めるが、少し変更を受け入れてもらいたいと伝えろ。」

「変更、ですか?」

「ああ。学園入学後の住まいは本人に選ばせよう。徐々に学ばせたいことも出てくる。ここと向こう、行き来すればいいんじゃないか。
それと、伯爵家の教育が悪いとは言わんが家庭教師はこちらが選ぶ。費用もだ。
あと、楽しめる場所などないが、年に1,2度くらいこの屋敷に来てもらおう。まぁ、慣れのためだ。」


慣れるのは屋敷にか、祖父としての父にか、父としての私にか。まぁ、全部か。

正直、父がこんなにあっさり妥協案をのむとは思っていなかった。
だが父はリゼルを気に入っていた。
彼女がこの公爵家を変えてくれることに期待していたのかもしれない。 

どこもこんなもんだと思っていたからあまり気にしたことがなかったが、うちより親子関係が事務的な貴族家など稀だろう。
 

「あと、お前に子種を殺す薬を飲ませた犯人がわかった。」
 

そうだ。いつ、誰に飲まされたんだ?
 



 
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