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一方、愛人になることをリゼルに拒まれたエドモンドは失意の状態だった。
 
まさか、リゼルの好意を受け取ろうと振り返れば、もう彼女はそこにいないなど考えもしなかったからだ。

だが、よく考えれば当たり前だ。あれから8年近くが経っている。
3人の子供がいるリゼルは恋より愛だと言った。
家族を捨ててでもエドモンドを望む女ではないとわかっていながら、再びやらかした。

どうしてこうも思い込んでしまったのか。悪い癖だ。最早、羞恥だ。

あぁ、リゼルに言われたことが身に染みる。

好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

まさに、今の自分のことだ。

恋は必ず実るというものではないのだ。これが失恋するということか。……つらい。
 



そして、またしてもビクターがやってきた。


「どうだったー?」

「…………わかっていて聞いているだろう?」

「ははっ。ごめんごめん。だけど忠告しただろう?家族よりもお前を選ぶわけないじゃん。」


そうだった。何度も言われた。リゼルが愛人になる可能性は非常に低い、と。

あの時は謎の自信があったんだ。おそらく、恋に気づいたばかりだったから。

なんと、滑稽なことなのか。
 


「んで?向こうは何て言ってきた?」


あ、そうだった。父にもまだ伝えていない。


「15歳になったら公爵家の籍に入れてもいいと。だが18歳まで伯爵家で暮らすとか何とか。
あぁ、違う。18歳まで伯爵家で暮らすことと、婚約者は本人か伯爵家が選ぶということに同意するのであれば15歳になれば公爵家の籍になることを認めると言っていた。」

「なるほどね。学園に入学する時に公爵家の者として名乗らせるんだね。それまで認めないというのは子供の間は伯爵家で愛情いっぱいに育てたいんだろうな~。いいなぁ。レイフォード君。」

「愛情いっぱい……うちには縁のないものだな。」

「だからじゃない?ここに任せたらレイフォード君もお前みたいに自分の感情がよくわからない子になってしまいそうだし、婚約者も性格の相性云々ではなく家柄や利益優先の完全なる政略結婚で、そんな2人から産まれた子供も愛情を感じない寂しい子供に成長してしまう。その負の循環を断とうと思ってるんじゃない?」

「負の循環……」

「だって、ここってうちの公爵家よりも殺伐とした空気よ?愛情?家庭?何それって感じ。
うちも政略結婚だけど兄弟3人いるし賑やかだったな。母は女の子が欲しかったのにと4人目を産ませてくれなかった父にいつも愚痴ってたけど、孫に女の子が産まれて可愛がってるよ。」


確かに、父ともアナレージュとも、笑い合う関係性ではない。

父も自分も兄弟がおらず、この間、伯爵家で見たようなレイフォードたち兄弟3人が仲良く遊ぶ姿には密かに驚かされたほどだ。

同じ政略結婚でも、片方だけでなくお互いに努力が必要なんだな。

信頼関係、か。リゼルが言っていたな。

どうして私はエヴァンのようになれなかったのだろうな。

あぁ、それこそが育つ環境の違いということか。

 
 

 
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